- AIやIT技術の進展が発達障害の方の仕事に与える影響はどう考えられるか?
- 発達障害の子をもつ親へ、発達障害の方たちと働いている人からのアドバイスは何かあるか?
- 発達障害の方が向いていると思われる仕事はどのようなものか?
前編につづき、グリービジネスオペレーションズ株式会社 福田社長へのインタビュー。
たーとるうぃずでビジネス、ITに関わり、発達障害の子の親である。そんな私が特に興味をもつことを質問をさせて頂きました。
【グリービジネスオペレーションズ株式会社 代表取締役社長 福田智史 氏】
―― AIなどのIT技術の進展が発達障害の方の仕事に与える影響についてはどう考えますか?
「『AIが障がい者の仕事を奪う。』
そのように言われることもありますよね。
しかし、それは障がいの有無にはあまり関係ないと思います。
本当にAIに仕事を奪われる時がくるとしたら、その可能性は全人類に当てはまるものです。そういう次元の議論だと思います。
そのような考え方よりも、インターネット、SNS、スマートフォンといったIT技術の進化によって、以前よりも格段に仕事はしやすくなったことの方が重要だと思います。
例えば、一般的には障がいを持つ方を雇用するにあたっては、『5人につき一人、サポートをするスタッフが必要』と言われたりします。
当社では現在10人に一人です。
だからといって、コミュニケーションやサポートがおろそかになっているようなことは決してありません。
むしろ私との1対1での面談をはじめ、各種面談で相当にサポートしています。
それはITをうまく使うことによって実現できているのです。
たとえば、対面でのコミュニケーションが苦手な自閉症スペクトラムの方は、むしろ苦手を避けてITを活用することでコミュニケーションがしやすくなったりします。
これからの世の中はITを活用できない人のほうが、厳しくなっていくはずです。
発達障がいの方たちが、テクノロジーの進化に仕事を奪われるのではなく、むしろうまく使って活躍する。
当社のようなIT企業がそれを実践し、見せられるのは本当に良いと思っています。」
―― 福田さんは今年1月からファンコミュニティ・プラットフォーム「Fanbeats」を立ち上げ事業責任者をやられています。
発達障がいの方が働くGBOの経営とプラットフォーム事業は、全く違う、とても距離があるもののように思います。
両方を同時に行うことは自分の中で難しかったりしませんか?
「全く違うように見えますけどむしろ共通点もあるのです。
僕は、すべての人が同じスタートラインに立てる、チャレンジできる機会は公平であるべきと思っています。
障がい者であっても自助努力は間違いなく必要です。ただ、障がい者である、たったそれだけの理由でスタートラインに立つ「機会」や「選択肢」が減ってしまうことは不公平だと思っています。
Fanbeatsも、エンターテイメント業界で創作活動を行うクリエイターやファンに、より多くの「機会」や「コミュニティ」を提供するプラットフォームなのです。
「すべての人に公平に機会を提供したい、居場所の選択肢を増やしたい。」
これが共通しているのです。」
―― 発達障害の子をもつ親へ、発達障害の方たちと働いている福田さんからアドバイスを頂けませんか?
「自分が子どもだった頃と今では大きく違っているはずです。今から、5年、10年で世の中はもっと変わるでしょう。
将来どうなるかは誰にもわかりません。
であれば、こういう大人に育つべき、こういうレールを歩むべき、そういった大人がもつ同質性の高い価値観を疑うことは必要だと思います。
インターネットやスマートフォンが当たり前になった今の時代、選択肢は確実に増えていきます。
やる気、自信があれば本当にいろいろなことにチャレンジができます。その選択肢を、大人が強制する価値観によって狭めてしまっては息苦しいですよね。
「根拠のない自信」
そういったものがますます重要になってきます。
どんなに目の前に選択肢が増えても、そこに手を伸ばせるかどうかは自分次第。
その第一歩を踏み出す力「根拠のない自信」は子どもの頃から醸成された自己肯定感からうまれると思っています。」
―― 最後に。今後GBO、もっと広げれば社会をどうしていきたいですか?
「今までの社会は障がい者が第一線で活躍することは非常に稀でした。
そもそも社会参加率も高くなかったと思います。
最近よく耳にするダイバーシティーというのは個人が許容できる個性や価値観に柔軟性を求めるメッセージが多いです。
ただ本質は、現状に変化を強いているわけではなく、別に新たに選択肢が増えているだけで良い。
誤解を恐れずに言えば、個々が許容範囲を広げなくても、他人にはもっと無関心でいてあげることのほうが重要な気がします、
適度な無関心。
僕は今の社会構造のままで別の社会のありかた、選択肢がシンプルに増えた方が良いと思っています。
例えば30年前だったら考えられなかった新しい働き方の選択肢として「eスポーツ」や「YouTuber」が生まれてきたりしています。
特例子会社だって、会社の中での新しい選択肢。
こういう新しい選択肢を社会全体に増やせればいいと思いますし、企業としてそれを実現していきたいと思っています。」
普段は語られないようなことについて質問をしても、すぐに説得力のあるリアルな回答を頂けました。
多くの経験を重ね、日ごろから様々な考えを巡らせているからこそ現状を変えていけるのだとあらためて敬意をもちました。
再び、経営企画室副室長 竹内さんにGBOが多くの仕事を抱え、実績を残している理由などについて教えて頂きました。
GBOでは、グリーグループ内の人事・総務業務といった管理部門系の業務とゲーム、インターネットサービスといった事業部門系の業務を行っています。
【グリービジネスオペレーションズ株式会社 経営企画室副室長 竹内稔貴 氏】
私は詳しく教えて頂きました。勉強になりました。
しかし、GBOがうまくいっている強みの源泉でもあり、「社外秘」も多く私から詳細を公開してお伝えすることはできません。
端的に2つだけとりあげると、こういうところです。
・依頼する側もGBOのこと、そしてそこで働く社員たちをよく理解し、尊重し合える関係ができている。
(これが福田さんがおっしゃった数年かけて築き上げた一番重要なものなのだろうと思いました。)
・GBOが受託している業務は現時点でひと月に約350種類。それぞれの業務について、マニュアルや各工程が整備され、社員達が理解し、成果を発揮しやすいようになっている。
実際うまくいっているわけですから、日本中の特例子会社さんが真似て取り入れるべき、これ以上ない実効性のあるお手本だと思いました。
(ぜひGBOさんより、福田さんの哲学とあわせてどこからか出版頂ければと願っています。)
そしてGBOで実際に働かれている絹野さんにもインタビューをさせて頂きました。
30代の男性の絹野さんは発達障害のADHDをかかえています。
―― 現在はどのような仕事をされているのですか?
「グリーが開発しているゲームに関わる仕事や資料の作成、広告の効果測定などを担当しています。」
―― 仕事をしていて楽しいと思うときってありますか?
「自分なりに、いろいろあります。もっともっと仕事をしたいと思うくらいです。
今は自分が好きな原作のゲームに関わっているので、特にですね。
そして自分が役に立っていると感じられるときは本当に嬉しく思います。」
―― 逆にこれはつらかったという経験はいかがでしょうか?
「そうですね、自分ではできると思ってたくさんの仕事を受けたのですが、結果としてできなかったときがありました。
そのときには、関係するまわりの方に迷惑をかけて申し訳なかったと思います。」
―― GBOで行われている配慮で、実際にご自分に役に立っていることは?
「休憩室があり、毎日好きな時に30分間ベッドで仮眠をとれる制度があることですね。
この制度は本当に助かります。
それと、有給については時間単位で取れるので、通院のときなどはとても便利ですね。」
【グリービジネスオペレーションズ株式会社 事業管理部 事業管理第2チーム 絹野 敬侑 氏】
―― 発達障害といっても人それぞれですが、個人的な感想として発達障害の方が向いていると思う仕事はどのようなものでしょうか?
「こだわりが強く、好きなことであれば知識量も記憶力もすごくなる人もいます。
そのため、好きと思えることが出来るような仕事が特に向いていると思いますね。
私自身は今本当にとても楽しくやらせて頂いています。」
―― 今、仕事でご活躍されている立場から、発達障害の子をもつ親へのアドバイスなど頂けましたら。
「私が子どもの頃、当時は発達障がいという診断はされていませんでしたが、いま思い返してみると親は私にたくさん本を買ってくれていました。
それが今、活きていたりすると思っています。
いろいろなものに興味をもち、イメージや想像する力を伸ばしてあげることが良いと思います。
また、子どもが好きなものを早めに見つけてあげてください。
子どもが何かを一生懸命に取り組んでいたら、一緒になってやってあげるとか良いと思います。」
―― 今ある夢や目標などありましたら。
「ここに来る前に就労移行支援施設でいっしょに苦労した仲間や友だちやもっと多くの人に、
こうして働ける機会があって、
自分が今こうして楽しく仕事に取り組めていることを知ってほしいと願っています。」
だからこそ、私のインタビューやこうして掲載することに協力頂けたんですね。本当にありがとうございます。
隣に座っていた竹内さんは私に「何でも聞いてください。何でも言ってください。」とのこと。
真実ではない、オープンではない企業であればこんなこと絶対に言えません。
偽りのない、障害のある方とない方との信頼が確かにあるからでしょう。
私から絹野さんにお持ちの強みについて質問をして、少し困らせてしまうと、すぐに竹内さんから「自分のそういうところはなかなか言いづらいので」とフォローがありました。
そのうえで「彼は誰とでも仲良く円滑に仕事を進めることができます。そういった点はチームで仕事を進めていく上では、本当に強味となります。」とコメントいただきました。
たしかに、絹野さんとは初対面ながらすぐに私も友だちの気分になっていました。
日本にも、こんなふうに発達障害の方たちがご活躍されている、素晴らしいITの企業がありました。
どんどんグリービジネスオペレーションズ社のような企業が日本に増えていってほしいと願います。
社長の福田さん、副室長の竹内さん、ご活躍されている絹野さん、グリービジネスオペレーションズ社、グリー社の皆様、取材にご協力を頂き、このように掲載できましたこと本当に感謝申し上げます。どうもありがとうございました。
グリービジネスオペレーションズ社に行ってきた・前編
活躍するITコンサルタントの全員が自閉症。オーティコン社
(チャーリー)