- ロボットが発達障害の子どもに療育を手伝うことは可能か?
- ロボットがセラピストの代わりになることはできるか?
- ロボットを活用した療育が子どもたちの成長や社会性にどのような影響を与えるか?
「スターウォーズ」や「ウォーリー」などのSF映画では、ロボットが人と変わりなくとやりとりをして社会参加をしています。ときには恋におちたりも。
こうした、ハリウッド映画に登場するロボットはまだ夢の存在ですが、ロボット掃除機のルンバ、話すスピーカーのAmazon Echoなど限られたスキルをもつロボットはたくさん使われるようになりました。
そして、もっと知的なロボットが発達障害の子どもへの療育を手伝ってくれるようになるかもしれません。
ロボットは数字に関わる仕事から、たくさんのデータ分析の仕事まで、人の負担を軽減してくれます。
発達障害の子どもたちへ療育を行うセラピストは、同時にたくさんの作業を行う必要があります。
例えば、発達障害の子に表情や声の出し方など社会的な合図を理解できるように教えているときに、同時に発達障害の子がみせる反応をつかみ、分析、理解しなければなりません。
子どもがどこを見ているのか、頭をどう傾けているか、ものや人に触ったりしているか、どう触っているか、どういう順番で答えているかなど、たくさんのことを把握する必要があるのです。
それは簡単ではないために、多くのセラピストは自分の行っている療育風景をビデオカメラで記録しています。
子どもたちの反応をもれなくキャッチするために、あとで映像に目を凝らすのです。
セラピストが、それまでとは異なる療育方法を試したときには、それにより子どもたちがどういう反応をしたのかを確認するために数時間は必要となります。
ほとんどの療育は数ヶ月以上行うもので、1日に2〜3時間行うこともあります。
そのあとにビデオ映像の確認を行うとなると、毎日、長時間にわたる作業がセラピストには求められます。
一方で、こうしたビデオ映像からの分析作業などはロボットは得意です。
現在、発達障害の療育の場面などで利用されているロボットは、人が親しみやすい姿をし、カメラ、マイク、スピーカーなどを備えています。ビデオの録画機能を備えているものもあります。
手や足を動かし、一連の行動を行わせることができます。
こうしたロボットたちは、機械学習、音声認識、コンピュータビジョン、人の感情を理解したり表現したりするアフェクティブコンピューティング、人とのやりとりなどを行う人工知能、AIを搭載できます。
これまでの数十年にわたる研究によって、ビデオ映像からコンピュータが分析することも可能となっています。
人間の笑顔と嫌悪など表情の違いもわかるのです。
また、人に着けるウェアラブルな装置から計測できる心拍数や皮膚の汗の状態からも、不安な状況になっているなど、人の感情状態がわかります。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボのチームは、1999年からロボットなどによる発達障害への療育方法を研究しています。
自閉症と診断をされた子どもたちのビデオ映像から子どもたちが興奮しているか穏やかになっているか、言い換えれば、子どもたちがどう反応しているのかを判断し対応できるロボットについて、今年の初めに発表を行いました。
【関連記事:発達障害の子それぞれに合わせて療育の対応ができるAIロボット】
私たちが開発したロボットは、療育を行うセラピストから学びました。
まずセラピストたちに、子どもたちが楽しんでいる状況での感情表現、そうでない状況の感情表現について教えてもらい、療育を行っているときの子どもたちの感情の状態も記録してもらいました。
研究チームは、子どもたちをひとまとめにして考えるのではなく、それぞれの子どもにあわせて考え、対応するAIを開発しました。
セラピストから教わった子どもたちの感情表現、療育をおこなったときの子どもたちの状態についてのセラピストの記録と同じ分析結果になるように、療育中の子どもたちのビデオ映像を見てAIは学びました。
こうして、発達障害の子に対してセラピストの評価と同じ評価を行えるAIが生まれました。
このAIを搭載したロボットは、療育中の子どもの行動を見て、人のセラピストと同じように評価することが確認できました。
子どもたちのビデオ映像を見た場合でも、人とのセラピストによる評価と同じになっていました。
このセラピストから学んだAI、ロボットは、同じ子どもについて何度も療育を行って集まったビデオ映像の分析では特に有効なものでした。
人のセラピストよりも迅速に、子どもの行動から微妙な違いを発見し、療育における子どもの行動、変化について発見し文章にすることができるためです。
このAI、ロボットは、療育を行うセラピスト、特に新人のセラピストに子どもたちを改善させるための手助けにもなります。
「こういう行動をとる子どもには、どんな療育方法が効果的なの?」
「この子には、どんなふうに療育方法を変更するのが良いの?」
こんな質問に、適切な回答ができるからです。
また、ロボットは発達障害の子どもたちの社会性、人とのやりとりに関わるスキルも向上させてくれるかもしれません。
8月に発表された米イェール大学の研究では、発達障害の子がいる12の家族に、保護者たちが子どもと一緒に遊べるタブレット向けのゲームを提供しました。このゲームは、市販されているロボット「Jibo」と連携をするものです。
子どもがゲームをしていると、ロボットが保護者とやりとりをすることを促し、手伝います。
【関連記事:自閉症スペクトラム障害の子が30日間ロボット利用で劇的に改善】
ロボットとゲームのセッション、1日30分間を1ヶ月間以上続けたところ、子どもたちはジェスチャーを使うことが多くなりました。また保護者と一緒になって同じことに注目することも多くなりました。
子どもが自分のしていることに、保護者が見るように求めることが特に多くなりました。
そして重要なことは、ロボットがいなくなっても、そうした改善が変わることはありませんでした。
ロボットを使うと、子どもたちにとって、より魅力的な療育にもなります。
例えば、ロボットとやりとりをするゲームをすることで、目を合わせること、会話、しぐさなどによるボディ・ランゲージを練習することができます。
予測不可能なことに対して強い困難をかかえる発達障害の子にとって、ロボットは予想可能な反応をし自分を拒否することもないので、人を相手にするよりはるかに受け入れやすいものとなります。
自転車に乗る練習のようなものです。
ロボットは補助輪です。なれてくれば、補助輪を外して自転車に乗れます。速く、遠くに行けるようになります。
ロボットでなれて、自信がついてきたら、実際に人とやりとりをしはじめるのです。
そうして、より広く、たくさんの人たちとやりとりができるようになっていくのです。
私たちは、どんなに頭のいいロボットが出てきても人間の価値はずっと高いと考えます。そして人と感情的なやりとりもできるようになったロボットが、人間の困難を軽減してくれるような未来を想像しています。
発達障害の子への療育ロボットも将来、ルンバやAmazon Echoのように身近になるなるはずです。
ロザリンド・ピカード マサチューセッツ工科大学教授
(出典:米SPECTRUM)(画像:米MIT 米イェール大学 たーとるうぃず撮影発達障害の子を助けるロボット、NAOに実際に触れてきました。)
ロボット、AIは大好きです。そして本当に期待しています。
四次元ポケットは無理として、ドラえもんのようなロボット優しいロボットが将来できたら、助けられる子どもも大人も本当に多いはずです。それが全く不可能ではない時代になりました。
親であってもコミュニケーションが難しい、うちの子が言いたいことを教えてくれたり、私の目が届かないところでの困難を助けてくれたらと思っています。そんな頼れるロボットが実現されたら、私がいなくなったあとも安心できます。
ロボットペットは発達障害の人も助け、大きく活躍をし始めている
(チャーリー)