- 相手の感情が理解できない原因は「心の理論」なのか?
- 考えたり記憶することに問題があるのは「実行機能」なのか?
- 自閉症とADHDを同時に抱える子どもたちには、どちらの観点からの療法が効果的なのか?
30年以上にわたって、「心の理論」 “theory of mind” と「実行機能」 “executive function” のどちらが発達障害、自閉症の困難を説明するものなのか研究者たちは議論をしてきました。
「心の理論」 ― 他人の精神状態を推測する能力が困難であることが、社会的な行動や人とのコミュニケーションを難しくしている。
「実行機能」 ― 思考することや記憶にかかわる問題があるために、変化する状況に対応したり、新しい概念を理解すること、目標を設定することや落ち着いていられることを難しくしている。
私(英キングス・カレッジ・ロンドン精神医学研究所のトニー・シャーマン所長)の今回の研究では、「心の理論」が自閉症の困難を説明するのに強く関わるものであり、「実行機能」はしばしば自閉症をともなうADHDを説明できることを示唆する発見をしました。
発達障害の人の認知に関わる核心的な理解により、発達障害の人の社会的な場面での行動の理由がわかれば、効果的な治療方法の開発につながるはずです。
「心の理論」をもとにした治療方法では、自閉症の若者が感じている複雑な社会の中で行動すること、他人の行動を理解し、適切に対応することを助けられます。
「実行機能」をもとにした治療方法では、自分の中に起きる衝動を制御し、落ち着いて集中できることを助け、社会的な関係や学業の成績の向上につなげられるはずです。
10年前に行った研究では、100人の発達障害の青年に、認知に関わるテストに参加してもらいました。
このテストには、目が写った写真から人の感情を推測する「心の理論」に関わるテスト、そして脳のワーキングメモリを利用するカードの並びや文字列を思い出してもらう「実行機能」に関わるテストが含まれていました。
そのテスト結果から、社会的反応性尺度および自閉症診断観察スケジュールによる自閉症特性の範囲の測定と、2つのADHD形質判定を用いた分析を行いました。
「心の理論」に関わる困難と「実行機能」に関わる困難、そして自閉症の大きな特徴である人とのやり取りの困難や反復行動、それらの関連性を統計的な手法により調べました。
その結果、人とのやりとりの困難や反復行動が多いほど、「心の理論」に関わる困難が深刻、つまり他人の精神状態を推測するのが困難であることがわかりました。
しかし、「実行機能」つまり思考に関わる困難と、人とのやりとりの困難や反復行動が多いことには関係が認められませんでした。
「心の理論」にかかわる困難が反復行動などと関連するのは、相手の精神状態を推測できず相手のことがわからずに不安になり反復行動を起こしてしまうため、つまり「心の理論」にかかわる困難が反復行動の間接的な原因になっているからと考えられます。
昨年の研究では、ADHDと思考に関わる能力の「実行機能」についての関係がわかりました。
注意することができない、衝動的などのADHDの形質に関係していたのは相手の精神状態を推測できない「心の理論」の困難ではありませんでした。
つまり、自閉症の特徴とADHDの特徴は別のものという考えと一致するものでした。
自閉症の子の40%が、ADHDの診断基準も満たしています。
そうした子どもたちは、相手の感情がわからない「心の理論」の困難、思考に関わる「実行機能」の困難、その両方を抱えていると考えられます。
そのため、そうした子どもたちへは「心の理論」「実行機能」の困難の両方を改善する療法が効果が高いものとなります。
今回の研究からわかったことは、発達障害の子への治療方法をもっと効果的にすることにつながるはずです。
(出典:米SPECTRUM)(画像:Pixabay)
発達障害である自閉症、ADHDによる困難について、
相手の感情がわからないことが原因:「心の理論」なのか、それとも考えたり記憶することの問題:「実行機能」が原因なのか、どっちなのかという話です。
自閉症は「心の理論」に関わることが原因、ADHDは「実行機能」が原因。
そして、自閉症とADHDは原因が別の別ものであるために両方をもつ子もいて、そうした子には「心の理論」観点、「実行機能」観点、その両方の療法を行うのが効果的だろうということです。
効果の高い療育方法の検討、開発への基本研究といえるものなのでしょう。
「自閉症の人はまわりの人に関心がない。」それは違うという研究
(チャーリー)