- 女性や女の子の自閉症の診断漏れはどのようなリスクをもたらすのか?
- 自閉症の女性や女の子が正確な診断を受けるためには、どのような支援が必要か?
- 現在の医療や社会において、女性や女の子に対する自閉症の診断や理解にはどのような課題があるか?
イギリスの著名な脳神経学者によると、数十万人の女の子や成人の女性が男性と同じ基準で診断されてきたために、自閉症であると診断されていないといいます。
英キングス・カレッジ・ロンドンの発達精神医学センターのフランチェスカ・ハップ教授は、正しく自閉症と診断されなかったために、多くの女の子や成人の女性が精神的な問題をかかえることになってしまっていると警告しています。
「多くの女の子と大人の女性が自閉症であることを見過ごされてきてしまったのです。
これこそ、大きな男女の不平等の問題だと思っています。
自閉症の女性がこれまで、あまりに少なすぎるのです。」
最近まで、知的障害のない自閉症、アスペルガー症候群などになる割合は男性が女性の10倍にもなると考えられてきました。
しかし、女の子や成人の女性が正しく自閉症と診断をされていない可能性を示すたくさんの証拠が現れてきています。
最近の研究では、医療機関での記録や学校での記録をもとにしないで、実際の診断調査を行った結果、自閉症の男性と女性の割合は、3対1という結果でした。
ハップ教授は、自閉症の診断が適切なものになれば、自閉症の男性と女性との割合は2対1程度になると考えています。
自閉症とは主に男性がなるものと考えられてきたために、これまでの自閉症研究も、男性のみを対象としたものにかたよっています。
自閉症スペクトラム障害の男性と女性による違いについての研究を行っているハップ教授はこう言います。
「自閉症について、これまでにわかってきたことは、男性の自閉症に限られているといえます。」
ごく最近の研究では、女の子や成人の女性の自閉症は、男性とは現れ方が違う可能性を示唆しています。
自閉症の女の子、そして大人の女性は、自閉症の特徵を隠すのが上手なのです。
「自閉症の女の子や女性は、学校や職場では、人気のある女の子や女性を必死に真似していたりします。」
古くは、自閉症はホルモン分泌の異常で極端に「男性的な脳」になっていることが原因、という誤った考えもありました。
また、映画「レインマン」に代表されるように、自閉症についてメディアが描写する場合も、男性が独占していました。
そのために親や教師、医師までもが、社会性やコミュニケーションの問題をかかえる女の子や成人の女性に対して、これまで自閉症の可能性を考えることが少なかったのです。
自閉症の人の多くは、不安障害やうつ病などの精神的な二次障害をかかえてしまいます。
自閉症と診断をされていなかった場合のリスクは深刻です。
昨年行われた研究では、摂食障害のために入院した女性の23パーセントが自閉症と診断される基準を満たしていたことが発見されています。
「医師が摂食障害について診ているときに、自閉症である可能性を考えなければ、正しく治療はできません。」
そうハップ教授は言います。
成人してから自らも自閉症と診断をされた、英アングリア・ラスキング大学で自閉症の研究をしているハンナ・ベルチャーは、子どもの頃から不安に悩まされ、14歳で学校にも行けなくなったといいます。
「私が23歳になって初めて、私が自閉症であるかもしれないと指摘する医師に出会いました。
もっと早くに自閉症の診断を受けていれば、子どもの頃のたくさんの不安への対処に役立ったはずです。精
神的な健康の問題を減らすことは確かです。
私はずっと、自閉症の特徵をたくさん隠してきました。
これが何であるのかを理解できていれば、もっと自分が生きやすくなったはずです。」
英国民保健サービス(NHS)では、男女比の10対1に基づいて英国では自閉症スペクトラム障害の人は約70万人いると推定しています。
しかし、実際の男女比が3対1となれば、約20万人の女の子や成人の女性が自閉症と診断をされていないことになります。
英国自閉症協会の自閉症センターのキャロル・ポベイは、ここ数年の間、自閉症専門の診断センターへ紹介されてくる成人女性と女の子が確実に増えてきているといいます。
「最近の研究では、自閉症スペクトラム障害の男性と女性の数は、これまで考えられてきたよりも、はるかに同じくらいであることがわかってきています。
問題なのは医師たちも、女の子や成人女性での、男性とは異なる自閉症の現れ方について理解していないことです。
たくさんの女の子、成人の女性が、それが何なのかわからないまま、ずっと問題をかかえ続けて生きているのです。」
(出典:英The Guardian)
自閉症になるのは、「脳が男性的になりすぎてしまっている」から、
発達障害になるのは、子どもに冷たかったり、放置してきた「冷蔵庫マザー」が原因、
そうした考えは今は誤りであることがわかっています。
「ワクチンの予防接種と発達障害に関係がない」ことも米国疾病管理予防センターから公式に発表されています。
「そうかもしれない」を「そうではない」と導ける、世界中の専門家によって取り組まれている、こうした科学的な研究ほど頼れるものはありません。
発達障害、自閉症についての男女の偏りも、実際は「そうではない」ことが最近は多く示唆されています。
必要とする人が適切な支援を受けられる、二次障害を防ぐ、そのために早く正しく診断されるようになることを願います。
発達障害の子の母は冷たく虐待をする「冷蔵庫マザー」と呼ばれた
(チャーリー)