- 他者とのコミュニケーションが少ない理由は、脳内の報酬が少ないのか?
- 発達障害の子どもたちは感覚過敏なため、コミュニケーションを避けるのか?
- 自閉症スペクトラム障害の子は、報酬を感じるための違いがあるのか?
両手をグーにして、「どーっちだ?」
子どもなら誰でもしていそうな、こんな遊びが研究方法の基礎となりました。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちの、まわりの人とのやりとりについての研究です。
米カリフォルニア大学教育大学院で特別教育を専門としているキャサリン・スタブロプロス教授が、研究の調査方法として利用しました。
キャサリン教授は、神経科学の知識ももつ臨床心理学者として、自閉症スペクトラム障害の子どもと典型的な発達をしている子どもたちの脳内の電気活動から、脳内の「報酬」システムに違いがあるかを調べました。
自閉症スペクトラム障害の子どもは、典型的な発達をしている子どもに比べて、まわりの人とのコミュニケーションが少ない傾向にあります。
その理由を説明するために、これまで臨床医や研究者たちはさまざまな仮説を提唱してきました。
その一つは自閉症スペクトラムの子どもは、典型的な発達の子どもに比べて、
・まわりの人とコミュニケーションを行っても脳内において「報酬」が与えられない
ためだとしています。
キャサリン教授はこう言います。
「私たちの多くは、他者とコミュニケーションを行うと、ドーパミンが分泌されます。
この社会的動機づけ仮説は、発達障害の子どもたちは、他者とのやりとり、コミュニケーションで同じようにドーパミンが分泌されない、つまり報酬が与えられないために、他者とやりとりをしないとしないと考えるものです。」
また別の仮説は、感覚の過敏によるものだとします。
自閉症スペクトラムの子どもは典型的な発達をしているこどもよりも、強くたくさんの感覚を得てしまうために、他の人とのやりとりには圧倒されてしまうために逃げてしまう、嫌いであるからと考えるものです。
「発達障害の子どもは、音がとてもうるさく聞こえたり、光が明かりすぎたり、強烈になることがよくあります。
私たちの多くも、叫んでいるように聞こえる人や、あまりにまぶしい照明の部屋、騒音の中、そんな状況で会話をしようとは思わないはずです。」
つまり、感覚過敏が原因とする仮説では、自閉症スペクトラム障害の子どもは
・感覚の洪水を避けたいために、他者とコミュニケーションを行わない
と考えます。
キャサリン教授たちの研究チームは、7歳から10歳の43人の子どもに参加してもらい、電気的な反応から脳の活動を探りました。
子どもたちは、「社会的動機づけ仮説」「感覚過敏仮説」の両方について確認できる、遊びのような調査に参加しました。
子どもたちは33個の電極がついたキャップを頭にかぶります。
「子どもたちには、ゲームをしてもらいました。
少し待ってもらう時間もあります。
その待っている間に、子どもたちは考えます。
当たりが続くと、子どもたちは興奮していきます。
脳内でたくさんの報酬をもらい、もっともっと当たりを出したいという気持ちが強まっていきます。」
子どもたちは、2つの箱から当たりを選ぶゲームを行いました。
・2つの箱からどちらかを選ぶ。
・「当たり」であれば、「人の笑顔の写真」か「上向きの矢印」のどちらかが表示される。
・ハズレであれば、「人の悲しい顔の写真」が「下向きの矢印」のどちらかが表示される。
このゲームの調査から、次のことがわかりました。
・自閉症スペクトラム障害の子は、典型的な発達の子に比べて、顔の画像が出ることを望まない。
つまり、自閉症スペクトラム障害の子は、典型的な発達の子に比べると人とやりとりをして得る「報酬」が少ないと考えられる。さらに、重度の自閉症スペクトラム障害の子は、より矢印が出ることを望んでいた。
・箱が当たりでもハズレでも関係なく、典型的な発達の子の脳は「報酬」システム(=うれしい)が活発になっているのに対し、自閉症スペクトラム障害の子は感覚過負荷を感じているときと同じ状態になっていた。
・しばらく行うと重度の自閉症スペクトラム障害の子は「当たり」を選んで「人の笑顔の写真」が出たときには、多動になったり、パニックに近い状況を示すようになっていった。
これらの結果から、キャサリン教授は自閉症スペクトラム障害の子が他者とコミュニケーションをするのが少ない理由は、脳内の報酬が少ないためとする仮説、感覚過敏のためだとする仮説の両方だと言います。
「発達障害の子どもたちは、典型的な発達の子どもに比べて、コミュニケーションをとることで得られる「報酬」は少ないものの、全くないわけではありません。」とも付け加えています。
「この研究は発達障害の子どもたちの脳内における報酬システムをよりよく理解することで、医療的な支援の開発につなげられるものです。
他の人とのコミュニケーションが、報われるものであることを、ゆっくりと教えていくのです。
また、発達障害の子どもたちが感覚に過敏であることに配慮をして行うことも重要です。
私たちが話す声の大きさ、まわりの明るさが、どれほど「報酬」に関係するのか、微妙なバランスが必要となります。」
(出典:米ScienceDaily)(画像:Molecular Autism)(画像:Pixabay)
うちの子は感覚に過敏な感じはなく、むしろ鈍感な感じがします。
なので、「報酬が少ない」のかなと思います。
自分から話しかけてくるようなことは全くありませんが、それでも楽しくやっています。
理由がわかれば、療育にも活かされていくはずです。
自分の子どもでもわからないことだらけなので、こうした研究がますます行われていくことを願っています。
「恐怖のにおい」に恐怖しない発達障害の人
(チャーリー)