
- 自閉スペクトラム症の診断を受けた子どもは、どのような支援を受けるべきですか?
- 社会における自閉スペクトラム症への偏見をどう克服できますか?
- 自閉スペクトラム症を持つ人々がより良い生活を送るために、家族や友人はどのようにサポートできるのでしょうか?
私が5歳のとき、オーストラリアのブリスベンで小児科医から自閉スペクトラム症と診断されました。
そのとき医師は両親に「この子は将来、仕事を持つことも、結婚することも、親元を離れて暮らすこともできないだろう」と言いました。
自閉スペクトラム症は、一般的に「社会的なコミュニケーションや対人関係に課題があり、興味や行動が限られたり、繰り返しがちになる発達特性を持つ状態」として説明されます。
私は当時「アスペルガー症候群」と診断されましたが、これは現在では自閉スペクトラム症の一部として扱われるものです。
その小児科医は「この症状は1万人に1人のめずらしいものだ」と言いました。
それを聞いた父は「うちの子は『異常』なんかじゃない!」と強く反論しました。
当時は自閉スペクトラム症についての知識がほとんどなかったため、私は長い間、父が感情的になっているだけだと思っていました。
しかし、何十年も経った今、彼の言葉の意味がよく分かります。
父は私のことを「異常」ではなく、ただ「息子」として見ていたのです。
誰かが自分の愛する家族の特性を「障害」と決めつけることが、どれほど辛いことだったかを考えると、今では父の気持ちが理解できます。
しかし、当時の私には、周囲の子どもたちが経験しないような多くの困難が待ち受けていました。
当時の私は、自分の経験が特別なものだと思っていました。
しかし、実際には多くの人が同じような道を歩んでいたのです。
私は、2021年の「世界疾病負担研究(GBD)」の一環として研究チームとともに自閉スペクトラム症の推定有病率を調査しました。
その結果、2021年時点で「127人に1人」が自閉スペクトラム症であると推定されました。
これは1990年代に医師が親たちに伝えていた数字よりもはるかに多いものでした。
それ以来、自閉スペクトラム症に関する認識は大きく進歩し、支援サービスも世界の一部地域で大幅に充実しました。
また、自閉「スペクトラム」症という言葉が使われるようになったのも、症状の多様性がより理解されるようになったためです。
現在では、それぞれの特性や必要な支援が大きく異なること、そして適切な支援を受けることでポジティブな未来を築ける可能性があることが認識されています。
私の母も、小児科医の言葉を否定するかのように、私が成長していくための道を切り開こうと決意しました。
当時の情報は限られていましたが、母は自ら絵本や課題シートを作り、私に社会的なスキルや自立の方法を教えてくれました。
また、学校でも私が適切なサポートを受けられるように尽力し、補助教師をつけてもらうよう掛け合いました。
その結果、私は自閉スペクトラム症の子ども向けの特別支援学校に通うことになりました。
そこでは、社会的なスキルや感情の理解を学びました。
先生たちは私たちに「相手の表情の読み取り方」「非言語的なサインの理解」「会話の流れをつかむ方法」などを教えてくれました。
たとえば、店で買い物をする場面をロールプレイし、実際のやり取りを練習することもありました。
この特別支援学校には、10歳まで一般の学校と並行して通っていました。
早い段階で診断を受け、適切な支援を受けられたことは、私にとって非常に大きな意味を持ちました。
しかし、世界中の多くの自閉スペクトラム症の人々には、こうした機会が与えられていません。
GBD 2021の調査では、自閉スペクトラム症は「20歳未満の子どもや若者にとって、最も大きな非致死的健康負担のトップ10」に入ることが分かりました。
また、生涯を通じても「21番目に大きな健康負担」となっています。
自閉スペクトラム症に関する議論では、「これは障害なのか?」という根本的な問いがしばしば浮上します。
多くの人は「自閉スペクトラム症は障害ではなく、個性の一部だ」と考えています。
そして、困難が生じるのは、社会が自閉スペクトラム症の人々を受け入れないためだと主張する人もいます。
私自身、成長の過程で多くの困難を経験しました。
しかし、その多くは「私自身の特性」ではなく、「周囲の人々の反応」によるものでした。
自閉スペクトラム症の人々の多くは、うつ病や不安障害といった精神的な問題を抱えやすいことが分かっています。
社会的なコミュニケーションが難しく、周囲の人とうまく関係を築けないことが、その大きな要因の一つです。
学校では、私は「避けられる子ども」でした。
周囲の子どもたちは私を避け、私は「自分は嫌われている」「何を言っても、何をしても間違っている」と思い込んでいました。
大人になってからも、仕事や経済的な困難、孤独に悩む自閉スペクトラム症の人は多くいます。
最近の研究では、自閉スペクトラム症の人々の自殺リスクが一般の人々よりも約3倍高いことが示されました。
とくに知的障害を伴わない自閉スペクトラム症の人は、一般の人々よりも5倍以上自殺のリスクが高いことが分かっています。
こうしたデータは、自閉スペクトラム症の人々への支援が単なる「社会適応訓練」にとどまらず、彼らが尊厳をもって生きられる環境を整えることが重要であることを示しています。
診断から30年が経ちました。
私は仕事を持ち、結婚し、親元を離れて暮らしています。
これはすべての自閉スペクトラム症の人々に共通する目標ではありませんが、私にとっては重要な節目でした。
私の経験を活かし、世界中の自閉スペクトラム症の人々が自分らしく生きられる環境づくりに貢献したいと考えています。適切な支援を受けることで、多くの人が可能性を広げ、充実した人生を送ることができるはずです。
ダミアン・サントマウロ博士
豪クイーンズランド大学公衆衛生学部の名誉准教授
米ワシントン大学保健指標評価研究所の准助教授
(出典:豪Think Global Health)(画像:たーとるうぃず)
「成長の過程で多くの困難を経験しました。
しかし、その多くは『私自身の特性』ではなく、『周囲の人々の反応』によるものでした。」
それぞれの人が違うことを前提に理解し、お互いを尊重する。
もっともっとそうなってほしいと願います。
(チャーリー)