
- 自閉症の人の語りにはどのような独特の特徴があるのか?
- 物語を語る力を向上させるためにはどのような支援が有効なのか?
- 心の理論が自閉症の人のコミュニケーションにどのように影響するのか?
ロンドンのシティ大学が発表した研究によると、自閉症の人は物語を語る際に独特の特徴があることがわかりました。
これは、相手の気持ちを推測する「心の理論(メンタライジング)」が関係している可能性が高いといいます。
日常生活では、友達に今日あった出来事を話したり、先生に宿題の内容を説明したりすることがあります。
こうした「語る力(ナラティブ能力)」は、単に言葉を並べるだけでなく、物語を整理して伝えたり、相手が理解しやすいように工夫したりする力も含まれます。
自閉症の人は、この「語る力」にどのような特徴があるのでしょうか?
ロンドンのシティ大学(City, University of London)のアンナ・ハーヴィー氏(Anna Harvey)らの研究チームは、自閉症の人と非自閉症の人の語りの違いを調査しました。
研究には、11〜15歳の自閉症の人44人と、同じ年齢の非自閉症の人54人が参加しました。
どちらのグループも、年齢、性別、知的能力、言語能力がほぼ同じになるように調整されていました。
参加者は、映像を見たあとに、その内容を自由に話してもらう課題に取り組みました。
研究チームは、話の「構造」と「一貫性」を分析しました。
話の「構造」は、物語の基本要素(登場人物、出来事、結果など)がどれだけ含まれているかを評価しました。
一方、「一貫性」は、話がつながりやすく、聞き手にとってわかりやすいかどうかを測るものです。
たとえば、「あの人」「それ」などの指示語を適切に使えているか、話が途中で脱線せずにまとまっているか、といった点が評価されました。
さらに、研究では「心の理論(メンタライジング)」と「実行機能(エグゼクティブ・ファンクション)」という二つの認知能力も測定しました。
心の理論とは、相手の考えや気持ちを推測する力のことを指します。
一方、実行機能とは、思考を整理したり、状況に応じて行動を切り替えたりする力のことです。
研究の結果、語りの能力には「心の理論」が強く関係していることがわかりました。
心の理論のスコアが高い人ほど、話の「構造」と「一貫性」のスコアも高い傾向がありました。
つまり、相手の気持ちや考えを推測する力が高い人は、よりわかりやすく物語を語ることができるということです。
一方で、「実行機能」は語りの能力と関係がないことが判明しました。
思考を整理する力や注意をコントロールする力が高くても、物語の構成やわかりやすさには影響しなかったのです。
また、研究チームは「自閉症の診断そのもの」は、語りの「構造」に影響を与えるものの、「一貫性」には影響しないことも発見しました。
つまり、自閉症の人は、物語の基本的な要素を揃えるのが苦手な傾向があるものの、一度話を組み立てると、自閉症でない人と同じくらいの分かりやすさで語ることができるのです。
この研究結果は、語りの力を支援するためには「心の理論」を鍛えることが有効であることを示唆しています。
自閉症の人に対して、物語を語る練習をするだけでなく、登場人物の気持ちを考えるトレーニングを取り入れることで、より効果的な支援ができるかもしれません。
研究チームは、自閉症かどうかにかかわらず、個々の認知特性に応じた支援が重要だと述べています。
たとえば、語りが苦手な人に対しては、「どんな気持ちだったと思う?」と問いかけながら話を組み立てる練習をすることが有効かもしれません。
自閉症の人の語りの特徴は、決して「劣っている」わけではありません。
むしろ、話の組み立て方に違いがあるだけであり、適切なサポートがあれば、より明確でわかりやすい語りができる可能性があります。
この研究は、自閉症の人だけでなく、語りが苦手なすべての人にとって、より良いコミュニケーションをサポートする方法を考えるヒントとなるでしょう。
(出典:Autism Research)(画像:たーとるうぃず)
「自閉症の人の語りの特徴は、決して「劣っている」わけではありません。
むしろ、話の組み立て方に違いがあるだけ」
こうして研究が進み、あらぬ誤解がなくなって、みんな気持ちよくコミュニケーションができる世界を期待しています。
(チャーリー)