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- 子どもの心の健康を保つために、親のメンタルヘルスはどのように支援すべきか?
- 発達障害を持つ子どもに対する家庭環境の改善は、どのように行うべきか?
- 子どもの不安や行動上の問題を軽減するために、医療や教育の連携はどのように強化されるべきか?
アメリカでは、子どもの心の健康や発達に関する問題が深刻な社会課題として浮上しています。
今回、フロリダ・アトランティック大学のチャールズ・E・シュミット医学校の研究チームは、全米子ども健康調査(NSCH)のデータを用いて、2019年から2022年にかけての6~11歳の子どもたちの「不安」や「うつ」、「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」、さらには行動や対人関係の問題について詳しく調査しました。
また、保護者の心や感情の健康状態が子どもの症状の重症度にどのような影響を及ぼしているかにも注目しています。
現代社会において、子どもたちの心の健康や発達に関する問題は、個々の健康問題に留まらず、家庭全体、さらには社会全体に影響を及ぼす重大な課題です。
COVID-19パンデミックの影響で家庭内で過ごす時間が大幅に増えたことや、ソーシャルメディアの普及、生活環境の変化などが、子どもたちの心にストレスや不安を与えていると考えられます。
こうした状況の中、今回の調査は、6~11歳という発達の重要な時期にある子どもたちの心の状態と、保護者の心の健康との関連性を明らかにすることで、今後の支援や対策の方向性を探ることを今回の研究は目的としています。
本研究は、全米で実施されているNSCHという大規模なアンケート調査のデータを活用しています。
NSCHは、アメリカ国内の0~17歳の子どもたちの健康状態や生活環境について、家庭ごとに詳細な情報を集める調査です。
今回の分析対象は、6~11歳の子どもたちで、各年度ごとに約9,000~15,000人のサンプルが含まれています。
調査項目は以下の5つのカテゴリーに分類され、医師による診断結果や保護者の報告に基づいて評価されました。
1.不安症状
2.うつ症状
3.行動や対人関係の問題(行動障害)
4.自閉症スペクトラム障害(ASD)
5.注意欠陥・多動性障害(ADHD)
また、保護者については、「自分の心や感情の健康状態」を「とても良い」「良い」「普通」「やや悪い」「悪い」の5段階で自己評価してもらい、その結果をもとに、子どもの各症状との関連を統計的に解析しました。
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■ 不安症状について
・全体の不安症状の有病率は、2020年から2022年にかけて9.5%から11%以上へと上昇しており、子どもの心の不安が増加している傾向が見られました。
・とくに、重症と判断された不安症状は、2020年に約8%でピークを迎え、その後も2021年、2022年で7.7%前後に安定して推移しています。
これは、単なる数値の増加だけでなく、症状の深刻度も変動していることを示しており、子どもの精神面の負担が依然として大きいことが伺えます。
■ うつ症状について
・うつ症状は、2019年に2.3%前後であったのに対し、2022年には2.4%へと僅かに上昇しており、全体としては大きな変動は見られないものの、やや上向きの傾向が認められました。
・重症度に関しては、毎年5~7%の子どもがうつ症状を重く感じていると報告され、2021年には6.8%に達するなど、一部の子どもにおいては深刻な状態が続いていることが明らかとなりました。
■ 行動や対人関係の問題(行動障害)について
・子どもの行動面での問題は、全体の発生率が2019年の9.2%から2022年には10.3%へと増加しており、社会生活や学校生活において、子どもがトラブルを抱えるケースが増えていることが示されました。
・しかし、重症度の割合は、2019年の10%から2022年には8.9%と、やや改善の兆しも見られる結果となりました。これは、表面的な問題は増加しているものの、深刻なケースについては一定の対応が功を奏している可能性を示唆しています。
■ 自閉症スペクトラム障害(ASD)について
・ASDの有病率は、2019年から2020年にかけて約3%と安定していたのに対し、2022年には4.25%に上昇しました。
・一方、ASDの重症度は全体的に高い水準にあり、2019年は9.8%でしたが、2021年には14.5%、その後2022年には11.8%と変動が見られ、子どもの発達面での支援の必要性が浮き彫りとなっています。
■ 注意欠陥・多動性障害(ADHD)について
・ADHDに関しては、子どもたちの報告数が年々増加しており、2022年には12.8%に達しました。
・重症度の割合は、2019年に14.4%、2020年には13.8%、2021年には14.2%、2022年には13.7%と、ほぼ横ばいの傾向にあり、症状の発現自体は増加しているものの、重度の状態は大きな変化が見られない状況です。
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具体的な数値を挙げると、
・保護者が「やや悪い」または「悪い」と評価した場合、子どもの重度の不安症状を呈するリスクが、保護者が「とても良い」と回答した場合に比べ、約2~6倍に高まる結果が得られました。
これは、2020年と2022年のデータで顕著に示されており、親の心の状態が子どもの精神状態に直接影響を及ぼしていると考えられます。
・また、ADHDに関しても、保護者が「良い」や「普通」と回答した場合、保護者が「とても良い」と評価する場合に比べ、子どもの重症なADHD症状が出る可能性が大幅に増加しているという結果が示されました。
・一方、うつ症状やASDについては、保護者の心の健康との関連性が統計的に有意ではなかったものの、全体としては家庭環境や親子関係が子どもの発達に影響を与えている可能性が指摘されています。
今回の研究は、子どもの心の健康や発達の問題を個々の問題としてではなく、家庭全体の環境の中で捉える必要性を強く示唆しています。
保護者が自らの心の健康を保つことが、結果として子どもの安心した発達環境の整備につながることが明確になりました。
たとえば、家庭内で親子のコミュニケーションが円滑であり、保護者がストレスを適切に管理できれば、子どもが抱える不安や行動上の問題、さらにはADHDの症状も軽減される可能性があります。
また、学校や医療機関、福祉サービスといった各方面での連携が、家庭環境の改善と子どものサポートに寄与することも期待されます。
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具体的には、
・保護者向けの心理的支援プログラム:ストレスマネジメントやカウンセリングを通じて、保護者が自身の心の健康を改善し、子どもにとって安定した家庭環境を提供できるようサポートする取り組み。
・学校や地域コミュニティとの連携:学校のカウンセラーや地域の福祉サービス、医療機関が一体となって、子どもの早期発見・早期介入を実現する仕組みの整備。
・家族全体で参加できるワークショップや講座:親子でコミュニケーションスキルや自己管理の方法を学ぶことで、子どもの不安や行動問題を予防・軽減するプログラムの普及。
・政策的な支援と予算の確保:子どもの精神保健分野に対する国や地方自治体からの支援策を強化し、家族全体の健康促進を目指すための施策が求められます。
今回の研究調査は、アメリカの6~11歳の子どもたちにおける不安、うつ、行動障害、ASD、ADHDといった問題が、年々変動しているだけでなく、保護者の心の健康状態と密接な関連があることを明らかにしました。
とくに、保護者が自らの心や感情の健康状態を「やや悪い」または「悪い」と評価した場合、子どもが深刻な不安やADHDの症状を呈するリスクが大幅に上昇する結果は、家庭環境の改善がいかに重要かを示しています。
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家族全体での心理的な支援プログラムや、学校・地域連携による包括的な支援体制の整備は、子どもの未来を守るための重要な一歩と言えるでしょう。
今回の研究は、アメリカの子どもたちの心と発達に関する現状を浮き彫りにし、親の心の健康が子どもたちの症状に大きな影響を与えることを示しています。
家族全体での支援体制を強化することが、子どもの不安や行動問題の改善、さらにはADHDなどの発症リスクの低減につながる可能性があるといえるでしょう。
教育、医療、福祉の各分野が連携し、家庭環境の改善と保護者のメンタルヘルスケアに取り組むことで、子どもたちが安心して成長できる社会の実現が期待されます。
(出典:Pediatric Reports)(画像:たーとるうぃず)