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自閉症の認知硬直性が招く極端信念と暴力行動の隠れた因果関係

time 2025/02/11

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自閉症の認知硬直性が招く極端信念と暴力行動の隠れた因果関係
  • 自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性が、極端な信念形成にどのように影響するのか?
  • オンライン環境が思想形成や暴力行動に与える具体的な影響は何か?
  • 教育や介入プログラムが、極端な信念体系の形成を防ぐためにどのように活用されるべきか?

大量殺傷事件を引き起こす人物の形成は、単なる「衝動的な行為」ではありません。
むしろ、その行動は、本人の脳の働き方、育った環境、そして長い年月をかけて固められた信念体系が複雑に絡み合った結果として現れます。

近年、こうした事件について議論が交わされる中で、自閉症スペクトラム障害(ASD)が原因と単純に結び付けられることもありましたが、実際にはもっと複雑な背景があると考えられています。
ここでは、とくに「極端に過大評価された信念(Extreme Overvalued Beliefs; EOBs)」という概念に注目し、その形成過程や影響についてお伝えします。

まず、ASDの特徴として、認知の硬直性やパターンへの固執、特定の興味に対する集中力の強さが挙げられます。
こうした特性は、日常生活では決して悪いものではなく、むしろルーティンを大切にするなどの長所として働くこともあります。
しかし、成長過程において、特定の思想やイデオロギーに出会った場合、その固執する性質が逆に働き、極端な考え方が刷り込まれてしまう可能性があります。

この現象は、動物行動学の分野で「インプリンティング(刷り込み)」という概念として知られています。
たとえば、コンラート・ローレンツが示したように、幼い子ガモが最初に目にした対象に強く執着するのと同じように、人間も幼少期や青年期の重要な発達段階において、ある思想や価値観に接触すると、それが一生にわたって消えにくい固定観念となる場合があります。
ASDの方は、元来の認知の硬直性がこの刷り込み現象と相まって、特定のイデオロギーや価値観を極端に受け入れてしまうリスクが高まると考えられます。

また、近年の研究では、ASDの特性と「過剰な固執」が、単に興味や日常行動に留まらず、身体イメージや自己管理に関する過激な考え方(例:極端なダイエットや摂食障害)にも影響を与える可能性が指摘されています。
たとえば、細部にまでこだわる性質や、決められたルールに従おうとする傾向が、理想的な体型や美意識と結びつくと、極端な自己制御や過剰な自己評価といった問題に発展することもあるのです。

刷り込みによる信念形成には性別による違いも見られます。
女性の場合は、幼い頃から「美しさ」や「魅力」といったイメージが強く影響しやすく、過剰な美意識や体型に対するこだわりが、摂食障害(とくに拒食症)などの問題に繋がる傾向があります。

一方、男性は、社会的な正義感や復讐心、闘争的な価値観など、攻撃性や対抗心を伴うイデオロギーが刷り込まれやすいという特徴が指摘されています。
子供の頃に、ヒーローや戦士、アウトローといった「アーキタイプ(原型)」に触れる機会が多いと、それがやがて自分自身のアイデンティティの一部となり、時には暴力や攻撃行動を正当化する根拠として利用されることがあります。
こうした歪んだ原型が、個人の極端な信念として固定化されれば、その後の行動が暴力的なものへとエスカレートするリスクがあるのです。

現代社会においては、インターネットやソーシャルメディアが、個人の思想形成に大きな影響を与えています。
現実の人間関係では、さまざまな意見や反対意見が交わされ、認知的不協和(自分の考えと矛盾する情報に触れることで生じる不快感)を通じて、柔軟な思考が促される場合があります。
しかし、オンライン上のコミュニティは、しばしば同じ考えを持つ者同士が集まり、互いにその考えを強化し合う「エコーチェンバー」として機能します。

たとえば、過激なイデオロギーや特定の行動を正当化する情報が溢れるネット上の掲示板やフォーラムでは、最初に刷り込まれた極端な信念がさらに強固なものとなり、現実世界での反対意見や批判を受ける機会がほとんどありません。
このような環境では、ASDの特性である認知の硬直性がさらに悪影響を受け、もともと脆弱な思考パターンが固定化され、過激な思想が極端に発展してしまうリスクが高まるのです。
オンライン上での情報の偏りが、個々の信念体系を強化し、暴力行動を正当化する土台となることは、近年の事例からも示唆されています。

また、個人の思想形成には生物学的な要因も無視できません。
とくに、性ホルモンは認知の柔軟性や行動パターンに影響を与えることが知られています。
男性ホルモンであるテストステロンは、認知の硬直性を強め、支配的な行動や攻撃的な傾向を促進する可能性があります。
これにより、ASDの男性が特定の過激なイデオロギーに染まりやすくなり、暴力的な行動を取るリスクがさらに高まると考えられます。

一方、女性では、エストロゲンなどのホルモンの変動が、美しさや容姿に対する過大なこだわりを生み出す要因となり得ます。
とくに思春期など、ホルモンバランスが大きく変化する時期には、これらの影響が顕著になり、思想の刷り込みや固定化が起こりやすいとされています。

このように、ホルモンの影響と、個々の脳内での情報処理の特徴が相まって、特定のイデオロギーが極端な形で定着する現象が生じるのです。
生物学的な背景と社会的な影響が複雑に絡み合うことで、一見理解し難い行動パターンが生まれるため、単一の要因で説明するのは非常に難しい問題となっています。

従来の精神医学や臨床心理学では、こうした極端な信念や行動は、しばしば強迫性障害(OCD)や妄想といった既存の診断枠組みの中で説明されることがありました。
しかし、実際には、こうした「極端に過大評価された信念(EOBs)」は、単なる不合理な思い込みではなく、論理的な構造を持ちながらも、本人にとっては極めて現実感のある、そして社会的にもある程度の支持を得ることがあるのです。

つまり、これらの信念は、必ずしも精神疾患そのものの副産物ではなく、むしろ個人の内面で育まれた一種のイデオロギーとして理解されるべき現象なのです。

この観点から、犯罪心理学や法医学の分野では、従来の診断枠組みを超えて、個々の信念体系の形成過程や、その背景にある社会的・生物学的要因をより総合的に評価するアプローチが求められています。とくに、自己の正義感や復讐心、あるいはヒーローや戦士といった原型(アーキタイプ)への強い同一視は、従来の枠組みでは十分に説明できない複雑な現象として捉えられており、専門家の間でもその解明が進められている段階です。

こうした背景を踏まえると、極端な信念体系に基づく暴力行動を未然に防ぐためには、単に個々の症状に対処するだけでなく、より広い視野でのアプローチが必要となります。
まず、初期の発達段階において、健全な価値観や多様な視点を育む教育が重要です。
たとえば、批判的思考力やデジタルリテラシーを身につけることで、オンライン上の偏った情報に容易に流されるリスクを低減させることができます。

また、実際にリスクが高まっている兆候が見られる場合には、専門の法医学的リスク評価や、ピア・メンタリング、そして構造化された批判的思考を促すプログラムなど、複数の介入手法を組み合わせた早期対策が求められます。
実際、ある研究グループが取り組んでいる「ボディ・プロジェクト」などのプログラムは、過激な美意識や自己イメージの固定化を防ぐための取り組みとして効果が示されており、これをさらに発展させた形で、暴力的なイデオロギーの形成に対抗する試みが期待されています。

加えて、オンライン上で過激な思想が流布される環境に対しては、情報の多様性を保つ仕組みや、異なる意見との対話を促す施策が重要です。
これにより、エコーチェンバー化を防ぎ、個人が一方的な価値観に固執するのを抑止することが可能になるでしょう。

大量殺傷事件の背景には、単なる衝動や一面的な精神疾患だけでは説明しきれない、複雑な心理的・生物学的・社会的要因が絡み合っています。

ASDのような認知の硬直性を持つ人々においては、幼少期や青年期の発達段階で、特定の思想や価値観が強く刷り込まれる(インプリンティング)ことで、それが本人のアイデンティティの一部となり、極端な信念(EOBs)へと発展するリスクが高まると考えられます。
さらに、オンライン環境における情報の偏在や、性ホルモンによる生物学的影響も、こうしたプロセスに大きく寄与しています。

従来の精神医学的診断枠組みでは、これらの現象を単なる強迫観念や妄想と一括りにする傾向がありましたが、実際には論理性を伴い、社会的にある程度の支持を受ける場合もあるため、新たな視点での理解が必要とされています。
これを踏まえ、事件の予防や早期介入においては、教育、批判的思考の育成、デジタルリテラシーの向上、さらには多角的なリスク評価と介入プログラムの導入が不可欠です。

このような多面的な取り組みにより、極端な信念体系が固まる前に、あるいは固まった後であっても、その影響を和らげ、最終的に暴力行動に結びつかないようにするための社会全体での対応が求められているのです。

私たち一人ひとりが、個々の違いを理解し、さまざまな情報や価値観に触れることで、より健全な思考環境を築いていくことが、こうした悲劇の再発防止につながるはずです。

(出典:米Psychology Today)(画像:たーとるうぃず)

その個人だけを問題視しても減ることはありません。

社会の構造、システムとして捉えて、予防となる適切な注意と支援が必要です。

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(チャーリー)


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