- 言語理解のメカニズムを知ることで、どのように子どもをサポートすればよいのか?
- 自閉症や言語障害のある子どもに最適なトレーニング方法は何か?
- 言語能力の発達に影響を与える要因は何だろうか?
米ボストン大学のアンドレイ・ヴァイシェドスキー博士と米ハーバード大学のデニズ・サティクらによる研究により、人間の言語理解が3つのメカニズムに基づいていることが明らかになりました。
この発見は、自閉スペクトラム症(ASD)やその他の言語障害を持つ人々の支援や治療に役立つ可能性があると期待されています。
研究チームは、言語理解に関する15の能力を測定する調査を通じて、言語障害を持つ17,848人(4歳から22歳まで)を対象に分析を行いました。
対象者には、自閉症やダウン症、特定の言語障害、注意欠如・多動症(ADHD)など様々な診断を受けている人々が含まれています。
さらに、言語能力を正常なスピーチ(4語以上の文章を話せること)を持つ人々に絞ることで、話し方の違いが結果に影響を与えないように工夫しました。
その結果、言語理解が次の3つのメカニズムに分類できることが判明しました。
【3つの言語理解メカニズム】
1. 基本的なコマンド理解メカニズム
最も基本的な言語理解能力に該当するのが、このコマンド理解メカニズムです。自分の名前を理解する、「やめて」や「いいえ」などの単純な指示に従う、簡単な命令を理解する能力が含まれます。
たとえば、「ボールを持ってきて」といった指示を受けた際に、行動に移す能力を指します。
この段階では、複雑な文法や修飾語の解釈を必要としません。
2. 修飾語の理解メカニズム
次に、修飾語(形容詞や数詞など)を使った表現を理解する能力が挙げられます。
たとえば、「青いリンゴ」や「大きい赤いボール」といった言葉を聞いて、その意味を理解できるかどうかです。
この能力は、色、サイズ、数といった単純な情報を組み合わせて解釈する力を指し、少し高度な認知スキルが求められます。
また、「3つの小さなリンゴを取ってきて」といった複数の修飾語が含まれる指示にも対応できる能力が含まれます。
3. 高度な統語的理解メカニズム
最も高度なメカニズムとして、統語的理解が挙げられます。
このメカニズムでは、空間的な表現(例: 「テーブルの下に置く」)、動詞の時制(例: 「私は食べる」「私は食べた」)、柔軟な語順(例: 「猫がネズミを運ぶ」と「ネズミが猫を運ぶ」の違い)を理解する能力が含まれます。
また、物語や説明文を理解し、内容を把握する力もこのメカニズムに基づいています。
高度な言語能力を持つ人々は、これらの複雑な文法的関係を理解し、さらに自由な想像力を使って内容を解釈することが可能です。
調査対象者をクラスター分析(統計的手法で共通点を持つグループを分ける方法)によって分類したところ、3つのメカニズムに対応する言語理解フェノタイプが明らかになりました。
- 統語的フェノタイプ
:すべての言語理解メカニズムを持ち、最も高度な言語能力を持つ人々が含まれるグループです。健常者のすべてがこのグループに属し、特に自閉症スペクトラム症の軽度の人々もここに含まれる場合があります。 - 修飾語フェノタイプ
:修飾語とコマンドの能力を持つものの、高度な統語的理解は苦手な人々が分類されます。 - コマンドフェノタイプ
:基本的なコマンド理解能力のみに頼るグループです。主に重度のASDを持つ人々がここに分類される傾向があります。
分析の結果、自閉症の重症度が高いほど、コマンドフェノタイプに属する割合が高いことがわかりました。
たとえば、重度の自閉症を持つ人の60%がコマンドフェノタイプに属し、統語的フェノタイプに分類される割合は16%にとどまりました。
一方、軽度の自閉症では、統語的フェノタイプに属する割合が38%に上昇しました。
また、ダウン症やADHDを持つ人々も同様の傾向を示し、障害の種類や重症度によって言語理解の仕組みに違いがあることが示されました。
この発見は、言語障害を持つ子どもたちへの支援方法をより個別化するための大きな一歩となる可能性があります。たとえば、コマンドフェノタイプに属する子どもには、修飾語の理解を助けるトレーニングを優先的に行うことが推奨されます。
一方で、統語的理解を発達させるには、物語を読む訓練や文法的な練習を行う必要があるとされています。
研究チームは、この結果をもとに、言語能力と神経科学、遺伝学の関連性をさらに探る予定です。
たとえば、これらのメカニズムに関連する遺伝子や神経経路を特定することで、より効果的な治療法や教育方法を開発する道が開かれるかもしれません。
この研究成果は、科学誌「NPJ サイエンス・オブ・ラーニング」に発表され、多くの専門家から注目されています。この研究は、言語障害を持つ人々がより良い生活を送るための基盤を築くと同時に、人間の言語の進化やその仕組みを深く理解するための重要な一歩となります。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
うちの子はほとんど話すことはできませんが、最近「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ」と声に出すことが多くなりました。
イヤなことが増えるのは、私も一緒に悲しくなってしまいますが、自己主張をできることはとてもうれしく思います。
知的障害の理解にも。言語は情報伝達手段か思考手段か?米MIT
(チャーリー)