- 自閉スペクトラム症(ASD)を持つ子どもが医療現場でどのような困難に直面するのか?
- 医療従事者はASDの子どもたちに対してどのような具体的な支援策を講じることができるのか?
- 親が医療施設で子どもをサポートする際に、どのような準備や情報が役立つのか?
アメリカ・タフツ大学の研究チームが、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ子どもたちの医療体験について詳細に調査し、医療現場での支援策を提案しました。
この研究では、ASDの子どもたちが医療施設で遭遇する課題やストレス、そしてそれを軽減する方法について徹底的に検討しています。
ジョリー・ストラウスらの研究チームが、さまざまな医療分野の研究を包括的にレビューしました。
レビュー対象は緊急治療室、手術室、待合室、入院病棟、そしてかかりつけ医の診療という5つの医療環境にまたがり、それぞれにおけるASDの子どもたちの心理的調整や対応策を検討しました。
研究の背景として、ASDの子どもたちが医療施設で直面する独自の困難が挙げられます。
ASDは行動やコミュニケーションの発達に影響を及ぼす神経発達障害で、子ども59人に1人の割合で診断されるとされています。
ASDは「スペクトラム」として扱われるため、その症状や程度は個人によって大きく異なります。
たとえば、一部の子どもたちは日常生活を自立して送ることが可能ですが、多くの子どもたちは感覚過敏や反復的な行動、社会的交流の困難といった特徴を示し、それが医療施設でのストレスとなることが多いです。
この研究では、包括的な文献レビューの手法が採用されました。2006年から2018年にかけての12年間にわたり発表された61,719件の論文を対象に、研究チームはデータの収集、評価、分析を行いました。
まず、対象となる研究の選定基準として、「ASDの診断を受けた0歳から18歳までの子どもたちが、医療施設で心理的調整を試みた経験を記録していること」としました。
一方で、成人やASD診断に焦点を当てた研究、医療の心理的影響に直接関係しない内容は除外されました。
このようにして最終的に96本の論文が選ばれ、それらを基に研究チームは5つの医療環境におけるASDの子どもたちの課題と支援策を体系的に分析しました。
緊急治療室(ED)では、予測できない状況や過剰な感覚刺激がASDの子どもたちにとって大きなストレスとなっています。
明るすぎる照明や騒音、複数の医療従事者の出入りなどが感覚過敏を引き起こし、結果として子どもたちは強い不安を感じることが多いと報告されています。
この問題に対処するために、研究チームは親が事前に記入できる「登録カード」の使用を提案しました。
このカードには、子どもの好みや感覚的なトリガー、推奨されるコミュニケーション方法などを記載することができ、医療従事者が迅速に適切な対応を取れるようになります。
また、静かな待合室や個室の提供、光や音の調整、事前説明に視覚的なツールを活用することが推奨されています。
手術室や処置室においても同様に、ASDの子どもたちは感覚過敏や変化への対応の難しさから強いストレスを感じることがわかっています。
とくに、手術当日におけるスケジュールの変動や飲食制限は、ASDの子どもたちにとって非常に難しい状況となります。
このため、事前の準備が重要とされています。例えば、手術室や手術器具の写真を事前に見せる、手術までの流れを視覚的に示すスケジュールを提供する、といった取り組みが有効です。
また、手術室の照明を暗くする、騒音を減らす、そして子どものストレスを和らげるためのグッズ(例:重い毛布、音楽、好きな動画など)を提供することも、ストレス軽減に寄与するとされています。
待合室では、長い待ち時間や構造化されていない環境がASDの子どもたちにとって大きな障壁となっています。
親たちは、子どもを管理しながら医療スタッフの指示を聞いたり、必要な書類を記入するのが難しいと感じることが多いです。
このため、待合室での滞在時間を短縮する仕組みや、子どもたちが楽しめる発達年齢に適したおもちゃや絵本を提供することが推奨されています。
また、医療スタッフが子どもを待たせず、迅速に診療に取りかかる仕組みも有効です。
入院病棟では、ASDの子どもたちは環境の変化や医療機器への恐怖、予測不可能な出来事によるストレスを感じやすいとされています。
研究チームは、親と医療従事者が密接に連携し、子どもたちが安心して医療を受けられるようにすることが重要であると指摘しています。
たとえば、子どものコミュニケーションスタイルや感覚的なニーズを理解し、それに合わせた対応を取ることが効果的です。
さらに、入院中の活動として、音楽、パズル、動画などのリラクゼーション手段を提供することが推奨されています。また、退院時や成人医療への移行時には、子どもたちと家族がスムーズに移行できるよう、十分な準備を行うことが必要です。
このように、研究チームはASDの子どもたちが直面する医療現場での課題を多角的に分析し、それぞれの状況に応じた具体的な改善策を提案しました。
この研究成果は、医療従事者、保護者、政策立案者が協力してASDを持つ子どもたちが安心して医療を受けられる環境を作るための重要な指針となるでしょう。
(出典:Cureus)(画像:たーとるうぃず)
医療現場で広く共有されるとありがたいです。
自閉症の妹を病院はすぐに拘束しないで。医学生になった私の願い
(チャーリー)