- 自閉症スペクトラム障害(ASD)を早期に発見するための具体的な方法は何か?
- 子どもの遊び方を観察することで、どのような行動指標が自閉症の診断に役立つのか?
- 遊びに基づく診断手法は、どのように医療リソースの少ない地域で活用できるのか?
北京大学第六病院精神衛生研究所のLiu Qinyiらが主導した研究が、自閉症スペクトラム障害(ASD)を早期発見するための新しい手法を開発しました。
研究チームは、幼児の遊び方に注目し、遊びの中に現れる特定の行動パターンを分析することで、ASD児を高い精度で識別するモデルを構築しました。
この手法は、遊びという日常的な活動を活用することで、時間と費用の負担を軽減しながら診断を支援する可能性を秘めています。
子どもの遊びは、社会的発達や認知的発達の重要な指標とされています。
遊びは、子どもが他者との関わり方を学び、自分の考えや感情を表現する場として機能します。
しかし、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちは、遊び方や社会的な行動に特徴的な違いが見られることが知られています。
たとえば、ASD児はおもちゃを目的に沿って使う「機能的遊び」や、空想を取り入れる「想像的遊び」を行う頻度が低く、他者との関わりも少ない傾向があります。
Liuらの研究チームは、この特性を遊びの観察から数値化し、ASDをスクリーニングするモデルを構築することを目的にしました。
このアプローチは、診断までに時間がかかる従来の方法とは異なり、簡易かつ迅速なスクリーニングツールとしての可能性があります。
この研究には、北京の病院や療育施設から集められたASD児123人(1歳から6歳)と、地元の幼稚園に通う神経発達が典型的な(TD)子ども123人が参加しました。
ASD児は、臨床的な診断基準である「精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)」と「児童自閉症評価尺度(CARS-2)」に基づき、専門家によって診断されました。
参加した子どもたちは遊びに適応した観察環境で、90秒間の自由遊びを行いました。
この短い時間での観察は、スクリーニングツールとしての効率性を重視した結果です。
遊びには4種類のおもちゃが用意され、これには以下のようなカテゴリーが含まれました。
1. ミニチュアおもちゃ(人形やおもちゃの車など)
2. 原因と結果を示すおもちゃ(ボタンを押すと反応があるおもちゃなど)
3. 組み立ておもちゃ(積み木など)
4. 特定の機能を持たない素材(紙や木の棒など)
子どもたちはインストラクターから干渉されることなく自由に遊び、その様子がビデオに記録されました。
インストラクターは子どもの問いかけに反応することは認められていましたが、新しいやり取りを促すことは禁じられていました。
録画されたビデオは、事前に訓練を受けたコーダーによって分析されました。
コーディングには、「ビデオベースの自閉症行動観察評価システム」が使用されました。19種類の行動(例:目線、表情、声の発声、機能的遊び、想像的遊びなど)を詳細に記録し、それをもとに81個のデジタル指標(回数、持続時間、割合など)が算出されました。
コーダーは、専門的な医学トレーニングを受けたスタッフ3人が担当しました。
彼らはコーディングマニュアルを学び、30件のサンプル映像で訓練を行った後、独立して作業を進めました。
コーダー間の一致率は83.7%から91.7%と高い水準を達成しました。
収集されたデータは、統計的手法を用いて分析されました。主に、ASD児とTD児の間で統計的に有意な行動差を見つけ出すための検定が実施されました。
その後、行動指標の中から、ASDを最も効果的に予測できる5つの指標を特定するため、段階的ロジスティック回帰分析が行われました。
選ばれた5つの指標は、以下のとおりです。
1. 社会的声のやり取りの持続時間
2. 機能的遊びの総回数
3. ミニチュアおもちゃを使った遊びの時間
4. 原因と結果を示すおもちゃを使った遊びの時間
5. 建築用おもちゃを使った遊びの時間
これらの指標を用いてAI予測モデルが構築されました。
このモデルは、受信者動作特性(ROC)曲線で評価され、曲線下面積(AUC)は0.826と高い値を示しました。
また、感度85.4%、特異度68.3%を達成しました。
このモデルは、ASD児を見逃さない(感度が高い)一方で、非ASD児を正確に除外する能力も一定程度確保しています。
研究チームは、この手法をさらに改良することで、モデルの精度を向上させる計画を立てています。
たとえば、観察時間を延長することで、より多様な行動パターンを捉えたり、半構造化された遊びタスクを追加することで、社会的やり取りのデータをより豊かにしたりする方針です。
また、研究者たちは、このモデルを遠隔医療の分野で活用する可能性を模索しています。
地理的な制約を超えて、医療リソースが限られた地域でも、初期診断を支援できるツールとして期待されています。
この研究は、遊びという日常的な行動に基づいた斬新なアプローチであり、ASDの早期発見に大きく貢献する可能性を秘めています。
さらに多くのデータを集め、さまざまな背景を持つ子どもたちを対象にすることで、この手法がより広く適用される日が来るかもしれません。
(出典:BMC Psychiatry)(画像:たーとるうぃず)
遊んでいる様子を見て、わかることはたしかに多いはずです。
うちの子も小さな頃から、遊ぶ様子は他の子とはまるでちがっていました。
言葉が消える前、2歳ころまでは「遊ぶ」感じがありましたが、そのあとはずっとただ、笑顔で歩いているか、お気に入りになった、かんやペットボトルをもって眺めているだけです。
大きくなった今でも。
なので、何かしらの「遊び」をずっと見つけたいと思っています。
(チャーリー)