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自閉症支援の新しい建物デザイン基準が示す、心地よい空間とは

time 2024/11/07

この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。

自閉症支援の新しい建物デザイン基準が示す、心地よい空間とは
  • 自閉症の子どもたちが安心して過ごすためには、どのような環境が必要なのか?
  • アーキテクチャーは自閉症の子どもたちの特性にどのように対応できるのか?
  • ASPECTSSデザイン指標が具体的にどのように自閉症の子どもたちの生活を改善するのか?

自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子どもたちにとって、安心して過ごせる環境があるかどうかは、その生活や学びの質に大きく影響します。
一般的な建物や学校のデザインは健常者向けに作られており、自閉症の子どもたちにとって必ずしも過ごしやすい環境とは限りません。

そこで、自閉症の子どもたちの独特な感覚や行動の特性を反映した空間設計の重要性が注目され始めています。
エジプトのアメリカン大学で建築学を教えるマグダ・モスタファ教授は、自閉症の子どもたちが過ごしやすい建築環境を実現するためのガイドライン「ASPECTSS™デザイン指標」を開発しました。
この指標は、建物内の音や光、空間配置といった環境要素を工夫し、彼らが感じやすいストレスを軽減することを目的としています。

ASPECTSSデザイン指標とは、音響(Acoustics)、空間の配置(Spatial Sequencing)、逃避スペース(Escape Space)、空間の分割(Compartmentalization)、移行スペース(Transition Spaces)、感覚ゾーニング(Sensory Zoning)、安全性(Safety)の7つの要素から成り立っています。
これらの頭文字を取ってASPECTSSと名付けられ、これらの基準に沿った建築デザインが自閉症の子どもたちに安心で落ち着いた環境を提供できるとされています。

この指標が誕生した背景には、近年、自閉症スペクトラム障害を持つ子どもたちが増えており、彼らに対応した設計の必要性が高まっているという現実があります。
自閉症の子どもたちは、環境からの刺激に敏感であることが多く、とくに騒音や強い光といった要素は大きなストレスとなり得ます。
そのため、ASPECTSSデザイン指標においては、こうした刺激を適切に管理することが重要視されています。

まず、指標の中でもとくに重要とされるのが音響環境の整備です。
自閉症の子どもたちは音に非常に敏感なことが多く、過剰な音や反響がある環境ではストレスを感じやすくなります。
そこで、音を吸収する素材を使ったり、静かな空間を確保することで、過剰な音刺激から子どもたちを守ることが推奨されています。
モスタファ教授の研究では、このように音響環境を工夫することで、子どもたちの集中力を高め、安心して学習に取り組める環境が実現できるとされています。

次に、施設内の空間配置も非常に重要な要素とされています。
自閉症の子どもたちが日々の活動の流れに沿ってスムーズに移動できるよう、空間の配置を工夫することで、次に何が起こるかを予測しやすくなり、不安の軽減につながります。たとえば、教室から休憩スペース、そして食事スペースへと順序立てて移動できるようにすることで、子どもたちはその流れを理解しやすくなり、安心して行動できるようになります。
このような空間の配置は、彼らの安全な移動や行動の安定にも役立ちます。

また、「逃避スペース」を設けることも、ASPECTSSデザイン指標の重要な要素です。
自閉症の子どもたちは、周囲からの刺激を強く感じやすく、過度な刺激を受けると疲れや不安が高まることがあります。
そのため、学校や施設内に静かで安全な「逃避スペース」を設置することで、必要に応じてそこに移動し、リラックスできる場所を提供することが推奨されています。
このようなスペースは、小さく落ち着いた空間が理想的で、壁やカーテンで区切られ、刺激を最小限に抑えることが求められます。
逃避スペースは、彼らが自分を落ち着かせ、感覚のバランスを取り戻すための貴重な場となり、過度な不安を軽減する効果が期待されています。

さらに、ASPECTSSデザイン指標では、建物内の空間を特定の活動や用途に応じて小さく区切ることも重要視されています。
広い空間をそのまま使うのではなく、教室や遊び場をそれぞれ区分けすることで、子どもたちは特定の活動に集中しやすくなり、環境からの影響を受けにくくなります。
たとえば、勉強する場所、遊ぶ場所、休憩する場所をそれぞれ明確に分けることで、子どもたちはその場に応じた行動がしやすく、活動の切り替えがスムーズに行えます。これにより、日常の中で安定したリズムを保ちながら活動できる環境が提供されます。

「感覚ゾーニング」もASPECTSSデザイン指標の大切な部分です。
建物全体を「低刺激ゾーン」「中刺激ゾーン」「高刺激ゾーン」に分けることで、必要な刺激の強さに応じた空間が設計され、子どもたちがそれぞれの活動に集中しやすくなります。
たとえば、集中して学ぶための低刺激ゾーン、リラックスして過ごす中刺激ゾーン、活発に活動する高刺激ゾーンといったように分けることで、異なる刺激のレベルがもたらす混乱を最小限に抑えることができます。
こうしたゾーニングにより、子どもたちは場所に応じて刺激に慣れることができ、環境の変化にも柔軟に対応できるようになります。

空間間の移動をスムーズにするための「移行スペース」も、子どもたちのストレスを軽減する重要な役割を果たします。
異なるゾーンの間に移行スペースを設けることで、急激な刺激の変化を避け、子どもたちは段階的に次のエリアに移動することができます。
これにより、活動の変更時にも安心して移動が可能となり、彼らのペースに応じた環境が提供されます。

そして、ASPECTSSデザイン指標の最後の要素である安全性も見逃せません。
自閉症の子どもたちは、空間の感覚や深さの認識が一般の子どもたちとは異なることがあり、事故のリスクも高まる可能性があります。
そのため、施設内の安全対策がとくに重要で、家具や壁材の選定、障害物の配置、緊急避難経路の確保など、安全性に配慮した設計が求められます。
こうした配慮により、子どもたちは安心して自分のペースで学んだり遊んだりすることができます。

このASPECTSSデザイン指標は、すでにいくつかの自閉症支援施設で導入され、効果が確認されています。
モスタファ教授の目指すところは、この指標を通じて、自閉症の子どもたちがより安心して学びや生活を送れる環境づくりを広めることです。
彼女の研究と提案がさらに多くの学校や施設で採用されることで、自閉症の子どもたちとその家族が安心して過ごせる空間が増え、彼らの生活が豊かになることが期待されています。

(出典:Research Gate)(画像:たーとるうぃず)

自閉症の子どもたちが安心、安全に過ごせる空間の設計。

その必要性と設計思想がますます広がっていくことを期待しています。

自閉症の人に優しいキャンパス。「静かな空間」を校内に設置

(チャーリー)


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