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自閉症の共感の問題の要因研究。感情反応性の低下が影響か

time 2024/09/19

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自閉症の共感の問題の要因研究。感情反応性の低下が影響か
  • 自閉症スペクトラム障害の人々は、共感能力の低下の原因として何が考えられますか?
  • 社会的相互作用における困難を改善するために、どのような支援や療法が有効ですか?
  • 他者との距離感が感情的共感に与える影響はどのようなものですか?

この研究は、ドイツのテュービンゲン大学精神医学・心理療法科に所属するアン=クリスティン・S・キミッヒを筆頭に、リナ・ブルガー、マリーナ・シャル、ビルギット・デアントル、ディルク・ヴィルトグルーバーの研究チームによって実施されました。
高機能自閉症(ASD:Autism Spectrum Disorder)の人々が、認知的共感と情動的共感にどのような困難を抱えているのか、そしてその共感の障害にどのような要因が関与しているかを明らかにしようとする試みです。

まず、共感とは他者の感情を理解し、それに感情的に反応する能力を指します。

これには大きく分けて2つの側面があります。1つ目は「認知的共感」で、他者の感情や状況を客観的に理解する能力です。
たとえば、友人が悲しい表情をしているのを見て、「友人が悲しんでいる」という事実を理解することが認知的共感にあたります。

2つ目は「情動的共感」で、他者の感情に共鳴し、自分も同じような感情を感じる能力です。
友人が悲しんでいるのを見て、自分も悲しくなる感覚が情動的共感です。

これらの能力は、社会的な相互作用や対人関係の構築において非常に重要な役割を果たしています。

自閉症スペクトラム障害の特徴の一つとして、社会的相互作用の困難が挙げられます。
過去の研究では、自閉症の人々が特に認知的共感において困難を感じることが多いとされています。

しかし、情動的共感に関しては研究結果が一貫しておらず、自閉症の人々がどの程度情動的共感を感じられるかは、状況や個人差によって異なることが示唆されています。
また、共感能力が障害される理由として、感情に対する反応の変化(情動的反応性の低下)が影響している可能性があると考えられており、この研究はその点を深く掘り下げています。

この研究の目的は、高機能自閉症の人々が持つ認知的共感と情動的共感の障害を詳細に調べ、それに影響を与える可能性のある要因を特定することです。

研究チームは、これまでの研究で指摘されてきた問題点や課題を考慮し、より正確に共感能力を評価するために独自の「文章による共感テスト(Textual Empathy Test:TET)」を使用しました。このテストは、文章で感情的な状況を描写し、参加者がその状況で他者がどのように感じるか(認知的共感)、そして自分がその状況を想像した時にどのように感じるか(情動的共感)を評価するものです。

テストには34人の高機能自閉症の参加者と、33人の通常発達者(健常者)が参加しました。
健常者は年齢、性別、教育水準、知能指数(IQ)で自閉症の参加者と同等となるように調整されています。
実験では、近しい人(友人や家族)や見知らぬ人など、異なる社会的距離を持つ他者について、感情的な状況にどう反応するかを評価しました。
参加者は、他者の感情状態(認知的共感)と、その状況を自分が体験していると想像した時の自分の感情(情動的共感)を評価し、その結果が分析されました。

この研究の結果、自閉症の人々は通常発達者と比較して、認知的共感と情動的共感の両方において一貫して低いスコアを示しました。
これは、社会的な距離に関係なく、自閉症の人々が他者の感情を理解し、またそれに感情的に共鳴する能力が低下していることを意味します。

とくに注目すべきは、この共感能力の低下が「情動的反応性」の変化に関連している点です。

情動的反応性とは、感情的な状況に対する自分の感情的な反応の強さを指し、自閉症の参加者は、健常者に比べてこの反応性が低いことが明らかになりました。
具体的には、他者が体験している感情的な状況を想像しても、自分自身の感情的な反応があまり強くないことが、自閉症の人々の共感能力の低下に寄与していると考えられます。
この情動的反応性の低さは、認知的共感と情動的共感の両方に影響を及ぼしていることがわかりました。

また、社会的距離が異なる他者に対する共感能力に関しては、健常者は友人や家族などの近しい人に対してより強い情動的共感を示す傾向がありましたが、自閉症の参加者は、見知らぬ人に対しても近しい人に対しても同じように共感が低い結果を示しました。
これは、自閉症の人々が他者との距離感にかかわらず、共感を感じることが難しいことを示唆しています。

さらに、この研究では、情動的反応性が共感能力に及ぼす影響についても分析が行われました。
結果として、情動的反応性が低いことが、自閉症の人々の共感能力の低下を仲介していることが示されました。
具体的には、自閉症の人々は、感情的な状況に対して自身が感じる感情の強さが低いため、他者の感情を理解したり共鳴したりする能力が制限されているということです。

この情動的反応性の低下は、共感の障害における中心的なメカニズムの一つとして考えられ、自閉症の人々が他者と効果的にコミュニケーションを取る際の困難の一因となっている可能性があります。
つまり、共感能力が低いことによって、対人関係の形成や維持が難しくなり、結果として社会的な孤立感を感じることが多いとされています。

この研究は、高機能自閉症の人々が抱える共感能力の障害の背後にあるメカニズムを深く理解するための重要な一歩であり、今後の研究や治療に大きな影響を与える可能性があります。
たとえば、この研究結果を基に、自閉症の人々に対する新しい治療法や訓練プログラムを開発することが期待されます。
とくに、情動的反応性を高めるための訓練や、共感能力を強化するための認知行動療法などが考えられます。

さらに、この研究は、自閉症の人々における共感障害が単に感情的な反応の低下にとどまらず、社会的なスクリプト(社会的な状況における期待される行動や反応のパターン)の理解の違いにも関連している可能性を示唆しています。
このため、社会的スクリプトの学習を通じて、他者との相互作用を改善することが有効であるかもしれません。

また、今後の研究では、脳の神経活動や生理的な反応を測定することで、自閉症の人々が感情にどのように反応しているのかをより詳細に理解することができるでしょう。
たとえば、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使用して、共感能力の障害が脳内でどのように処理されているかを調査することが考えられます。
これにより、より効果的な治療法の開発が進むかもしれません。

この研究は、自閉症の人々が社会的相互作用において感じる困難の理解を深めるだけでなく、より包括的な支援のあり方を模索するための基盤となる重要な成果です。

(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)

共感能力は低くない。

という研究もあります。自閉症に関わらず、結局、研究に参加した人によるのかもしれません。

であれば、もっと多くの偏りのない参加者による調査とあくまで「傾向」として理解する必要があるでしょう。

自閉症の人の中には「過剰に共感」ハイパーエンパシーの人もいる

(チャーリー)


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