- 医療従事者が自閉症を持つ人に不安やうつ病の治療を断る理由は何か?
- 自閉症の人が経験した差別や感覚過敏、マスキングなどはどのように治療に考慮されるべきか?
- 自閉症の人の社交不安やコミュニケーション上の困難の原因は何か?
自閉症の成人の、不安やうつ病などの一般的な症状に対する治療のニーズは、他の人とあまり変わりません。
しかし、多くの自閉症の成人が、医療従事者から不安やうつ病などの治療を断られた経験があると報告しています。
最小限の追加訓練と学習への意欲があれば、医療従事者はこうした自閉症の人の不安やうつ病などの治療はできるはずです。自閉症の人が医療従事者に援助を求める場合、対応できる症状や問題だと考えられるべきです。
例えば、自閉症の人が愛する人を亡くした悲しみに苦しんでいるなら、喪失を専門にするカウンセラーに相談できるようにするのが適切でしょう。
自閉症があるからといって、それだけで治療から排除して決してなりません。
その人の世界観や社会的交流に影響を与える違いの1つとして、自閉症は扱うべきです。
自閉症がその人の経験にどう影響したかを理解する一方で、自閉症があるからといって患者にするのを断るべきではありません。
自閉症の成人は、青年期の支援サービスがないまま、自閉症でない若者でも圧倒される大人社会の規範に適応する必要に直面することがあります。
職場での暗黙の期待を読み取ったり、感覚過剰に調整したり、人間関係を構築・維持したりするのに苦労します。
そのため、自閉症の成人は「燃え尽き」てしまうことがとても一般的です。
不安やうつ病などの併存症状が見られがちです。
適応圧力、感覚過剰の負荷、社会的期待が、それの根本原因でしょう。
自閉症の人の不安やうつ病の治療では、自閉症がその人の経験の形成やこの世界との関わり方にどう影響したかを考慮する必要があります。
差別や感覚過剰、自閉症でない人たちの社会の規範を理解するための混乱、「自閉症でないことを装う」プレッシャーなどのストレス要因を踏まえることが重要です。
自閉症の人の不安やうつは、しばしば自閉症に続発するものです。
そのため、根本原因を見過ごし、ストレス対処法を学んでも意味はありません。
社交不安は自閉症の人ではさらに深刻なものとなります。
一般的な社交不安障害では、非合理的な判断や嘲笑の恐れが中心的な特徴ですが、実際にそうした経験をしていないのに恐れているだけです。
しかし、自閉症の人の場合では、実際にそうした経験をしてきているので、社交不安は非合理的なものではありません。
つまり、自閉症の社交不安の治療では、その人生経験が社交不安にどう影響したかを理解させ、困難な社会場面を前向きに乗り越える力を身につける方法を見つける必要があります。
これまでの研究結果から、自閉症とコミュニケーションの困難は、自閉症の人と自閉症でない人のコミュニケーションスタイルの違い、いわゆる「二重の共感問題」に起因すると示唆されています。
自閉症の人は自閉症の人同士での交流が最も得意ですが、自閉症でない人ともコミュニケーションを取る必要があります。
一方の自閉症でない人も、自閉症でない人同士の交流が最も得意です。
そして、自閉症の人とのコミュニケーションは求められません。
つまり、お互いを理解するのが難しいという、文化的な違いがあるのです。
研究が示すように、自閉症の人と自閉症でない人たちの間には顕著なコミュニケーションの違いがあり、お互いの理解が途切れることがあります。
表情の読み取り、精神状態の特定、効果的なコミュニケーション、ラポール形成などの能力に違いがあります。
コミュニケーションスタイルの違いには、アイコンタクトや身体言語の役割、暗黙の意味などがあります。
医療従事者は、こうした違いを学び対応することで、自閉症の患者との信頼関係を築き、その人にあわせた治療を行うことができます。
自閉症の人にとって特別な興味関心は、アイデンティティの形成と他者とのつながりの手段になることがあります。
自閉症でないの人のアイデンティティは主に社会的なグループ所属に基づきますが、自閉症の人のアイデンティティは、しばしば特別な興味関心に基づいています。
医療従事者は、この特別な興味に触れ関わることで、自閉症の人が自分自身を再発見し、その人の強みや能力に気づく治療的機会を生むことができます。
また、自閉症の人が直面する大きな課題の1つが、感覚入力の違いによる過剰反応です。
蛍光灯への過敏さ、騒音で圧倒されやすいことなどがあげられます。
「感覚過負荷は不安のように感じられます」と言われています。
後から自閉症と診断された人は、そうした違いに気づいていない場合もあります。
マスキング(ソーシャル・カムフラージュ)は、自閉症の人が自閉症でないように見えるよう特定の行動を身に付けることです。
自閉症への偏見が強い世界では、マスキングは幼い頃から始まり、トラウマ反応になっていきます。
しかし、マスキングには自閉症への偏見のある世界を生き抜く適応の側面もあれば、うつ病、不安、バーンアウトのリスク増加という負の影響もあります。
マスキングの役割を尊重しつつも、不安やうつ病の治療ではその経緯を掘り下げることが重要です。
自閉症の人と自閉症でない人たちでは、思考スタイルも違います。
多くの自閉症の人はボトムアップの認知処理をする傾向があり、新しい状況への多くの質問が出てきますが、それは権威への挑戦と誤解されがちです。
一方の自閉症でない人はトップダウンの処理をする傾向があり、過去の経験から新しい状況を予測します。
どちらの思考スタイルにも長所がある、ということを理解することが大切です。
自閉症の患者を治療し始めるのは難しいように思えるかもしれませんが、謙虚な姿勢と理解を求める態度でアプローチすれば、効果的で報われる努力となります。
自らも自閉症である臨床心理士のカリッサ・バーネット博士はこう言います。
「自分の本当の体験を理解し、肯定的に捉えようとする人と一緒にいる経験そのものが大きな意味を持ちます。
それが癒しとなります」
(出典:アメリカ心理学会)(画像:たーとるうぃず)
医療従事者が自閉症の方の不安やうつ病を治療するにあたって、米心理学会が伝える以上のことを5つのポイントとして整理するとこんな感じでしょう。
- 自閉症だからといって治療を断らない
- 自閉症の人が経験した差別や感覚過敏、マスキングなどを考慮する
- 社交不安の原因を理解し、困難な社会場面を乗り越える力を身につけられるように支援する
- 思考スタイルの違いや自閉症とコミュニケーションの困難:「二重の共感問題」を理解する
- 特別な興味関心を治療に活かす。謙虚な姿勢と理解しようとする態度でアプローチする
自閉症、発達障害で不安やうつ病をかかえる方は多くいます。
そうなってしまう理由は、多くの人も想像できるはずです。
適切な医療支援・対応を何卒お願いします。
(チャーリー)