- 1. 過去には学習障害を持つ人たちが様々な職種で働いていたのに、なぜ現在は雇用率が低下しているのか?
- 2. 家族や地域コミュニティのサポートが学習障害を持つ人たちの雇用にどのような影響を与えているのか?
- 3. 学習障害を持つ人たちが本当に働きたいと願っているのに、なぜ現在の労働市場は十分な支援を提供できないのか?
イギリスでは、学習障害を持つ人たちの雇用率が100年前と比べて5~10倍も低下しています。
1910年代から1950年代の労働の歴史は、今日の低い雇用率についてのみならず支援についても参考にできるはずです。
歴史学者のルーシー・デラップ教授による新しい研究によれば、20世紀の優生学運動などが、イギリスの職場における包括性を失わせ、現在の恥ずべき低い雇用率をもたらしたと指摘しています。
当時「欠陥のある」「遅い」「奇妙」などとレッテルを貼られた人たちが、労働需要が高まっていた時期だけでなく、第一次世界大戦中やその後も、一部の地域ではそうした人たちの最大70パーセントが有給の仕事に就いていたことをデラップ教授は発見しました。
経済不況時には減少したものの、それでも30パーセントの人が仕事をしていました。
にもかかわらず、現在のイギリスでは、学習障害を持つ成人のうち雇用されているのは5パーセント未満です。
「不況になっても、もう学習障害を持つ人たちの雇用率が悪化することはありません。
なぜなら、既に最悪の状況だからです」
デラップ教授の研究は、10年間にわたる苦心の末に集めた、20世紀前半のイギリスの労働市場における学習障害を持つ人たちについての証拠をまとめたものです。
なお、雇用主の記録や国立アーカイブには、当時のそうした人たちを「隔離」しようとしていた証拠は見当たりませんでした。
たとえば、雇用についての1955年の調査結果が、イギリス国立アーカイブで見つかりました。
これは「劣等」と呼ばれたり「知的に障害がある」とされたりした人々がどのように雇用されているかを調査したものです。
また、英ウォリック大学のモダンレコードセンターに保管されている労働委員会の検査記録でも、追加の証拠が見つかりました。
「こうした人たちは、どの仕事でもいました。
靴の修理やバスケット編みなどのステレオタイプな職業だけでなく、家事、様々な製造業、店舗、炭鉱、農業、自治体でも働いていました」
デラップ教授の研究結果は、これまでの、学習障害を持つ人たちに関する先行研究とは対照的なものとなりました。
優生学などによって、19世紀に学習障害の人たちが、工業社会の共同体から施設への隔離に移行したと、考えるものです。
「私たちは、あまりに簡単に信じてしまっていたのです。
きちんと歴史の証拠を探し求めることを怠ってきたのです。
過去においては、学習障害などの人たちの多くは施設に入れられることなく、家族や友人、同僚の支援を受けながら、比較的独立した生活を送っていました」
1918年、ロンドンのブリキ工場で20年間働いた「学習障害」の人は、年間の季節やイギリスが戦っている敵が誰かを知りませんでした。
それでも、監査人の意見では、彼は手動プレスでは「通常の労働者とほとんど変わらない」能力を持っており、「機械での作業スピードが素晴らしい」と評価されていました。
雇用主にとって労働者が不足しているときは、学習障害持つ人たちがより魅力的に見えたということをデラップ教授は強調します。
しかし、需要が低下すれば、こうした人たちは最初に仕事を失うこともあったでしょう。
また、何年も非常に低い賃金と同じ単調な作業に取り残されていた人たちもいた明確な証拠も見つけています。
「『昔は良かった』と考える必要はありません。
決して、障害をもつ労働者の『黄金時代』とは言えません」
ただし、仕事に対してはきちんと賃金を支払うという、強い相互的な感覚がありました。
「これらの人たちの多くは、自分自身を尊重される労働者として考えました。
慈善の対象ではありませんでした。
一部の人たちはより良い条件を交渉し、多くの人たちは退屈で繰り返しの仕事を命じられるのを拒否していました」
また、デラップ教授はしばしば家族の目が重要な役割を果たしていたことも確認しています。
1922年に、ランドリーのオーナーは、「接客が非常に悪い」という理由で25歳の学習障害の女性の解雇を検討しましたが、「彼女の両親の要望により」彼女を雇い続けました。
「家族に見守られる労働者は、賃金の引き上げを求めたり、特定の仕事を拒否したり、搾取を制限したりすることができていました」
親や兄弟が同じ場所で働くこともあり、デラップ教授によれば、雇用主と家族の間に存在する道徳的な義務の絆がありました。
たとえば、ブリキ缶の底を取り付ける16歳の少女は、「会社いる他の姉妹のおかげで雇われました。満足しています」と1918年の記録に残っています。
1920年代と2020年代のイギリスを比較すると、学習障害を持つ人たちへのケアや教育について、懸念する共通点があるとデラップ教授は言います。
過去、施設は「とりあえずの場」であり、先に進むことがない場所だったといいます。
ほとんどの人たちは訓練されていなかったか、バスケット編みのような実際には需要のない仕事を学んでいました。
「この問題は、現在でも同じです。
労働市場は急速に変化しています。
そのため、特別支援学校や他の施設は、十分な有給機会を得るための十分な支援を行うことができないのです」
デラップ教授は、過去には学習障害を持つ人たちがさまざまな職種や環境で活躍していたにもかかわらず、現在では、非常に狭い職種に集中していることを問題視しています。
かつては、学習障害を持つ人たちの多くも、サービス部門に従事しており、公に顔を出す役職を含む仕事をしていました。
「彼らは一般の人々と接触する仕事もしていました。現在のサービス業です」
また、構造的な要因が引き続き人々の就職を妨げていると考えています。
「資格主義です。
それは、資格を持たない人も実際に非常に優れているかもしれないのに、仕事に就くことを難しくします。
私たちはさまざまな能力を持つ人たちが、活躍できるようにするためのシステムについて、より熟考する必要があります。
また、ITの普及も一因です。
学習障害を持つ人たちに対してコンピュータスキルを十分に教育していないため、それも現在は障害になっています」
デラップ教授は、イギリスの人口高齢化と労働力不足が、学習障害を持つ人たちをより多く雇用する機会につながると考えています。
「かつては、多くの学習障害を持つ人たちが農業に従事していました。
現在、農業分野は労働力不足に直面しています。
同様のことが他のすべてのセクターでも当てはまります。
雇用主が労働力不足を補うためには、積極的な包括戦略が必要です。
仕事は私たちの人生で意味を見出し、社会的な繋がりを築く機会です。
学習障害を持つ人たちの多くは本当に働きたいと願っています。
排除されると多くを奪われてしまうのです」
イギリスに限らず、先進国の多くで同じく起きているように想像します。
「雇用主」だけでなく、そこで生産や流通された商品やサービスに最終的に対価を支払う、「私たちみんな」の考え方こそが、変わる必要があるだろうと考えます。
(チャーリー)