- 日本の文化が自閉症の人にとって本当に適しているのか?
- 自閉症の特性が生活に適合しているとする主張に根拠はあるのか?
- 自閉症の人が日本社会で生きやすいとされる背景は何か?
先月、学術誌の紙面で日英の心理学者が興味深い質問を投げかけました。
「日本では自閉症の人は生きやすいのか?」
その主張はとてもシンプルです。
自閉症の行動の多くは、日本人のよく見られる行動を少しだけ誇張したものだからという理由です。
その結果、自閉症の人は「少し違うだけ」と認識されるため、西洋社会よりも日本の方がうまくいくかもしれないというものです。
その主張の筆頭著者であるグレイ・アサートンと彼の同僚たちは、3つの説得力のある観察結果で主張を補強しています。
第一の理由。
自閉症でない人と比較して、自閉症の人は話すことが少なく、個人情報を共有することが少ないためです。
このような、あまり話さないスタイルは、欧米の文脈ではめずらしいことです。
日本では、沈黙は強さを連想させ、ゆっくりと計算された応答は権威を連想させるものであるため、言葉によるコミュニケーションはしばしば沈黙と休止で満たされます。
第二の理由。
欧米ではアイコンタクトはオープンで正直であることを意味します。
しかし、自閉症の人の多くは直接目を合わせることを不快に感じます。
日本では、直視は怒っているとか、近寄りがたいと連想されることが少なくないため、目を合わせることを避けることが多くあります。
日本の子どもたちは、相手の顔ではなく首を見るように教えられています。
第三の理由。
多くの自閉症の人は、とくに見知らぬ人から身体に触れられることを好みません。
多くの日本人もそうです。
日本では、人々はめったに抱き合ったりしません。
知らない人に触れられると不快に感じます。
日本の伝統的な挨拶、たとえばお辞儀などは、触れずに行われるものです。
以上の理由だけを見れば、
「日本では自閉症の人は生きやすいのか?」
の答えは「YES」となるでしょう。
自閉症の特徴的な行動特性の多くが、日本の生活様式に合っています。
しかし、「文化的適合性が高い」という仮説が正しければ、日本での自閉症の人の割合は、他の国よりも低くなるはずですが、そうはなっていません。
日本での自閉症の人の割合は約55人に1人です。
それは、中国やイギリスを含む他の多くの国の約2倍です。
アサートンはこう述べています。
「日本では、自閉症の特徴がより受け入れられ、自閉症の生活がより日本の伝統に反映されている側面があるかもしれない。
しかし、日本文化には、神経多様性をより好ましくないものにしている側面もある」
日本はしばしばハイコンテクスト文化の国と言われます。
ハイコンテクスト文化では、言葉そのものはメッセージの一部しか伝えません。
聞き手は設定やその他の文脈的な手がかりから意味を推測しなければなりません。
自閉症の人は、相手の考え、感情、意図を理解する「読心術」を苦手とすることが多いため、日本人と接するときには、メッセージの意味を間違って解読してしまうことがあるでしょう。
また、日本社会は社会規範への適合と社会的礼儀正しさを重視する厳格な文化です。
自閉症の人はしばしば、日本の厳格な基準からすると不穏当で無礼とみなされる行動をとります。
その結果、ある研究によれば、日本では米国よりも自閉症にマイナスのイメージがもたれています。
東アジアの社会には、
「出る杭は打たれる」
ということわざがあります。
自閉症の人は、日本では西洋社会ほど目立たないように考えるかもしれませんが、実際のところ、日本では突出した存在になってしまうのです。
突出した存在には代償がつきものです。
いくつかの研究によると、多くの日本人は、社会秩序を変えようとするよりも、それにあわせて個人が変わるほうが簡単だと考えています。
その結果、日本人は(例えばアメリカ人よりも)「社会的世界の要求に合わせて自分自身を調整する」ことに積極的であり、より優れています。
日本人と自閉症の人は、表現型的に行動が似ているのは事実ですが、その行動の起源はまったく異なります。
社会的な場面で日本人がそのように行動するのは、そのように行動するように教えられてきたからです。
しかし、自閉症に関連した行動は、社会化の産物ではありません。
生まれつきのものであり、学習されたものではありません。
あまり理解されていませんが、実際には、先天性疾患による特徴です。
これは重要な違いです。
日本人は一般的に、社会秩序に適合するように自分を変えるべきだと考えているため、社会制度(学校や職場など)が自分の特異なニーズや欲求に対応してくれるとは期待していません。
しかし、自閉症の人たちは、新しい状況や不測の事態に適応するのに苦労します。
変化は得意ではありません。
ほとんどの場合、彼らはありのままの自分でいます。
そのため、彼らのニーズを受け入れてくれる社会で暮らすのが、自閉症の人にとっては生きやすいはずです。
ローレンス・T・ホワイト博士
ベロイト・カレッジ心理学名誉教授
(出典:米Psychology Today)(画像:Pixabay)
「日本は***だけど、外国は〜」
の逆版で、面白くとても説得力がある見解です。
北欧の国々は幸福度ランキングの上位の常連だったりしますが、実は抗うつ薬の消費が非常に多い国々でもあり、その関連を指摘する声もあったりします。
イメージと現実は違うことがしばしばですね。
(チャーリー)