- 米陸軍に勤務する自閉症や発達障害の兵士たちは、なぜ診断を隠しているのか?
- 自閉症や神経多様性を持つ人が陸軍に適用される基準は何か?
- 発達障害を持つ人が働く環境でどのようなサポートが必要か?
自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、その他発達障害と総称される認知診断と米陸軍の関係は複雑です。
自閉症の兵士や他の発達障害の診断を受けた兵士は、すでに現役で勤務していますが、多くの場合、陸軍に自分の診断を隠しています。
米ランド研究所の私のチームは、神経多様性と国家安全保障について、米国で初めて実施された研究を発表しました。
すでに勤務している自閉症や神経多様性のある兵士たちのことを知ってほしいと思っています。
彼らは情報将校、サイバー作戦将校、中隊長、その他の仕事に就いています。
診断される前に軍に入った可能性が高く、成人してから診断を受けるために軍の医療システム外で、診断を受けています。
もしくは、定年退職してから正式な診断を受けています。
彼らは、正式に診断されると、どうなるかをよく知っているからです。
自分の診断が知られることで好きな仕事を失うことを恐れています。
過去に自分の症状が原因で同僚からいじめられたことを言います。
職場で「普通」に過ごすために自分の症状を隠すことの精神的コストと疲れを語っています。
発達障害の診断がされたからといって、それだけで陸軍勤務の資格を失うわけではありません。
しかし、診断を明らかにした新兵は、勤務するためにいろいろな手続きを踏む必要があります。
自分の診断が兵役の妨げにならないことを証明しなければならないという話もありました。
陸軍自身が評価基準をもっていないにもかかわらず、18歳の若者に証明させることを強いるのです。
ADHDを持つある兵士は、軍のサービス全体にわたって、処方薬を使用すると不都合があるため、何年も役立ってきた処方薬をあきらめなければならないと述べていました。
配備された環境では、ADHDの人が薬を必要とする可能性は低く、配備された環境は彼らの脳が必要とするすべての刺激を与えてくれる可能性があるからだと、そう皮肉るADHDの人もいました。
この非医学的な理論は、これまで研究されたことはありませんが、薬物治療の禁止は軍隊にとって実際に逆効果であると示唆されます。
オリンピックで金メダルを獲得した体操選手のシモン・バイルズは、ADHDを管理するために毎日処方薬が必要であることを公言しています。
また、これらの診断が、運動能力の高さ、優れたコミュニケーション、技術革新の妨げになることは、明らかにありません。
『スポーツ・イラストレイテッド』誌には、自閉症のエリートアスリートに関する記事が掲載されています。
オスカー俳優のアンソニー・ホプキンスは、幼少期に自閉症と診断されました。
また、億万長者の発明家でありCEOのイーロン・マスクは、個人的にどう思われるかは別として、自閉症を抱えながら大成功を収めています。
ある防衛関連企業のCEOは、自閉症の従業員が地理空間画像のタグ付けを高い精度と低いエラー率で行っていることを紹介してくれました。
自閉症の従業員が、葉が邪魔をしてぼやけた衛星画像を見て、ロシアのミグ機、ウクライナのミグ機、ウクライナのミグ機のように塗装されたロシアのミグ機、の違いを見分けることができると自慢していました。
私たちの調査では、発達障害、神経多様性のある人は、注意散漫な環境でのパターンの認識、非言語テスト法を用いた知能テスト、過集中状態の達成において、定型発達の人よりも優れているという査読済みの研究を確認しています。
倫理と発達障害に関する研究では、自閉症の人は定型発達の人よりも、個人的な犠牲を払っても倫理的に行動する可能性が高いという結果が出ています。
もしこの研究が真実であれば、特定の機密情報や重要な業務にかかわる人にとって有利な特性です。
イスラエル、英国、オーストラリアでは、すでに国家安全保障機関に自閉症プログラムを導入しています。
数千億円規模の企業であるEYとグーグルは、発達障害の人たちを積極的に採用しています。
「米国の人口のうち、5~20パーセントの人が失読症、9.4パーセントの子どもがADHDと診断され、2パーセント以上の人が自閉症である 」
私たちの調査では、そう推定しています。
また、別の調査では、ADHDと診断されたアメリカの子どもの3分の2近くが処方薬を服用していることが示されています。
現在、陸軍は採用難に直面しているにもかかわらず、発達障害について大昔の理解をし、人事を決定し続けています。
私が育った1980年代は、一般的に、最も重い症状を示す子どもだけがそう診断されていました。
2020年代の今日、医師や研究者はこれらの診断を「スペクトラム」と表現し、私の子ども時代には「正常」とレッテルを貼られてしまった人たちを正しく診断するための、より洗練された評価方法を手に入れています。
これにより、これまで黙って苦しんでいた人たちにも、療育やサービスが提供できるようになったのです。
研究が進むにつれて、医師たちは、女の子や女性に現れる症状が、男の子や男性に現れる症状と大きく異なること、また、人種や民族の違いによる文化の違いから、米国内であっても、集団によって症状が大きく異なることにも気づきました。
これらの進歩により、かつては高校を卒業するのがやっとだったような人たちが、今では高等教育の学位を取得し、とても生産的な人生を送っています。
にもかかわらず、すでに高校の卒業証書、大学の学位、あるいは上級学位を取得しているかもしれない人たちが陸軍に応募しても、陸軍は曖昧で、一貫性のある方針もありません。
しかし、この問題は陸軍だけではありません。
国家安全保障に関わる神経多様性のある軍人や公務員は、「聞かず、言わせず」時代のLGBTQコミュニティと自分たちを比較しながら、黙って生活していると述べています。
診断を隠してその精神的コストを払うか、診断を明らかにして差別や偏見、さらには除隊の可能性を冒すかの選択を迫られたと述べています。
彼らは、診断を公表することによって、愛するキャリアを失うリスクを冒すことはできないといいます。
陸軍と国防総省には、この状況を覆すことができるような変更をすることができません。
何十年にもわたって一連の政策、慣行、偏見が定着してきたためです。
もしそこにいれば、あなたが、この状況を変えることができるかもしれません。
まず、神経多様性、ニューロダイバージェンスについてより詳しく知ってください。
記事や本を読み、ポッドキャストやTEDトークを聴き、自分のコミュニティがニューロダイバーシティに対してどのように配慮しているか、あるいは配慮していないかを知りましょう。
部隊のリーダーでなくても、部隊の中で心理的安全を作り出す方法を学んでください。
他の人が自分も弱くてもいいと思えるような環境を作るために、弱さを表現することについて学ぶのです。
もしかしたら、診断を受けているかもしれないものの、そのことをあなたに話す準備ができていないのかもしれません。
もし、あなたが大きな組織のリーダーであれば、診断を公表することなく、従業員同士がネットワークを作り、サポートし、指導し合えるようなグループを立ち上げることを検討してみてください。
私は研究中に、もし「目が良い」ことが求められている職場で働いている場合に、自分の「近視」をどのように雇用主にばれないようにするかを想像してみました。
必要となれば、できます。
しかし、メガネなしで1日を過ごすのは大変です。
目を酷使してひどい頭痛で帰宅することになるかもしれません。
毎日、私は目を覚まして、また同じことを繰り返すことになるのでしょう。
もし陸軍が、神経多様性を当たり前のものとして扱うなら、兵士は隠す必要がなくなります。
そして、偏見をなくした採用を行い、メガネを支給するのと同じように兵士に適切なサポートを行えば、陸軍は神経多様性の恩恵を受けるはずです。
コートニー・ワインバウム
米非営利ランド・コーポレーション上級国家安全保障研究者、元諜報部員。
(出典:米Modern War Institute)(画像:Pixabay)
「軍」に限ったものでない、問題と提言だと思います。
「心理的安全性」は発達障害にかかわらず、働く人が活躍し、企業・組織が成長するための必須要素です。
(チャーリー)