- 自閉症スペクトラム障害の人は、脳の活動と行動に基づいて4つの異なるサブタイプに分類できるのか?
- 自閉症のサブタイプを特定することで、治療法を個別化することが可能なのか?
- 自閉症特性に基づいて、どのような治療法や支援が効果的なのか?
米ワイルコーネル医科大学の研究によれば、自閉症スペクトラム障害の人は、脳の活動と行動に基づいて4つの異なるサブタイプに分類することができます。
この研究は、「Nature Neuroscience」に掲載されました。
299人の自閉症の人とそうでない907人の脳神経画像データを機械学習によって解析した結果、言語能力、社会的影響、反復行動や定型行動など、自閉症の人の行動特性と関連する脳結合のパターンが見つかりました。
また、4つの自閉症サブグループが別のデータセットでも再現できることを確認し、領域別の遺伝子発現とタンパク質間相互作用の違いが、脳と行動の違いを説明していることを示しました。
「自閉症スペクトラム障害の人は、社会的相互作用、コミュニケーション、反復行動において多くの異なるタイプの困難を経験します。
研究者たちは、自閉症スペクトラム障害にはおそらく多くの異なるタイプがあり、異なる治療法が必要かもしれないと考えてきましたが、それらをどのように定義するかについての合意は得られていませんでした。
私たちの研究では、自閉症のサブタイプを発見するために新しいアプローチをしました。
これは将来、診断や治療のための新しいアプローチにもつながるかもしれません」
そう、共同研究者のコナー・リストン博士(米ワイルコーネル医科大学フェイルファミリー脳精神研究所准教授)
は言います。
リストン博士らが、2017年にNature Medicine誌に発表した先行研究では、同様の機械学習法を用いて、生物学的に異なる4つのうつ病のサブタイプを特定しました。
その後の研究で、それらのサブグループが様々なうつ病治療に対して異なる反応を示すことも明らかにされています。
「うつ病の人をより細分化したサブタイプに特定することで、最適な治療をすることができます」
そう、米ワイルコーネル医科大学の精神科の神経科学の博士研究員である主著者のアマンダ・ブッフ博士は述べています。
この成功を受けて、研究チームは、自閉症の人にも同様のサブグループが存在するかどうか、また、その背景には異なる遺伝子経路があるかどうかを調べました。
自閉症は数百の遺伝子に関連する遺伝性の高い疾患であり、その症状は多様で、治療法も限られているとブッフ博士は言います。
ブッフ博士は、神経画像データと遺伝子発現データおよびたんぱく質の構造と機能を統合した新しい分析方法を作ることで、自閉症のサブグループについての仮説の検証を可能にしました。
「自閉症の治療法開発における障壁の一つは、診断基準が広範であるため、根本的な生物学的メカニズムが異なり、表れ方も多様であるにもかかわらず、同じにように扱うことです。
自閉症の人たちへの治療法を個別化するためには、この生物学的多様性を理解し、それを標的とすることが重要です。
それぞれがユニークであるのに、皆が同じものとして扱えば、最適な治療法を特定することは困難です」
共同研究者のローガン・グローゼニック博士はこう言います。
「何千もの遺伝子、脳活動の違い、複数の行動バリエーションを扱える機械学習の新しい手法が、この研究を可能にしました」
グローゼニック博士は、自閉症とうつ病の研究で生物学的サブタイプ分けに使われた機械学習技術を開拓した、ワイルコーネル医学部精神科神経科学の助教授です。
今回の研究の結果、臨床的に異なる4種類の自閉症の人たちのグループを特定することができました。
そのうちの2つのグループは、言語性知能が平均以上でした。
Aグループでは、社会的コミュニケーションに重度の障害がありましたが、反復行動は少なくなっていました。
Bグループでは、反復行動が多く、社会的障害は少なくなっていました。
視覚情報を処理し、脳が最も重要な情報を識別するのに役立つ脳の部位間の結合が、Aグループでは強くなっていました。
Bグループでは、これらの結合が弱くなっていました。
他の2つのグループは、重度の社会的障害と反復行動を持つものの、言語能力が大きく異なっていました。
そして、この2つのグループには、行動上の共通点があるにもかかわらず、脳の接続パターンは全く異なっていました。
研究チームは、何がその違いを引き起こしているのかをより深く理解するために、それぞれのサブグループに存在する非定型的な脳内結合を説明する遺伝子発現を解析しました。
その結果、その多くがこれまで自閉症と関連していた遺伝子であることも発見しました。
また、非定型的な脳内結合に関連するタンパク質間のネットワーク相互作用を分析し、主要なタンパク質を探しました。
オキシトシンは、以前から社会的相互作用に関連するタンパク質であり、社会的障害は強いが反復行動は比較的少ないというサブグループにおいて主要タンパク質でした。
これまでに、自閉症の人に対する治療法としてオキシトシンの経鼻投与を検討した研究があります。
ブッフ博士によれば、その結果はさまざまでした。
そのため、このサブグループにおいてオキシトシン療法がより効果的であるかどうかを検証することは興味深いと述べています。
グローゼニック博士はこう言います。
「自閉症の人のあるサブグループで有効な治療法があっても、サブグループについて考慮しないために、より大規模な試験でその効果が消えてしまうことがあるのです」
研究チームは、別のデータセットからも、同じ4つのサブグループを特定できることを確認しました。
研究チームは今後、これらのサブグループと、サブグループをターゲットとした治療法の可能性を研究する予定です。
また、機械学習技術をさらに洗練させることにも取り組んでいます。
(出典:米ワイルコーネル医科大学)(画像:Pixabay)
自閉症スペクトラムの人たちについて、より細かく次の4グループに分けることができたという研究です。
- Aグループ:社会的コミュニケーションに困難をかかえる、反復行動は少ない
- Bグループ:社会的コミュニケーションに困難をかかえない、反復行動は多い
- Cグループ:社会的コミュニケーションに困難をかかえる、反復行動も多い:言語能力が高い
- Dグループ:社会的コミュニケーションに困難をかかえる、反復行動も多い:言語能力が低い
自閉症スペクトラム、一人ひとり症状がグラデーションのように異なるから「スペクトラム」。
メディアなどで活躍するのをお見かけする人もいれば、うちの子のように話すことも意思表示も難しい人もいます。
それなのに、支援が同じようになっては困りますし、かといって、一人ひとり個別に支援といっても、バラバラ過ぎてどうすることが適切なのかも診る人によって異なり、支援内容も進歩しないのも困ります。
なので、この研究のようにもう少しグラデーションを分ける必要はあると思います。
(チャーリー)