- 不安を生じやすい自閉症の子どもに早期に対処する介入は効果があるのか?
- 自閉症の子どもの不安の深刻さと同一性へのこだわりはどのように関連しているのか?
- 6~8歳の自閉症の子どもが同一性へのこだわりを持つと、将来不安症状が出現するリスクは高まるのか?
日常生活において「同じもの」を強く好む、こだわりをもつ(同じ服を着る、同じ道を通る、日課に忠実に従う)自閉症の子どもは、不安を生じやすいかもしれないことが、新しい研究で明らかになりました。
そして、このような傾向に早期に対処するための介入は、これらの子どもたちの将来の不安特性を食い止めるか、少なくとも減少させる可能性があると研究者は述べています。
「おそらく、人生の早い段階で、これらの子どもたちとその家族が、徐々に柔軟性を築き、不確実性に直面し、それを許容し、支援的な環境と緩やかな移行を保証するように支援することが、自閉症の子どもが経験する不安の深刻さを防止または軽減するのに役立つかもしれません」
そう、カナダのオランダ・ブロアビュー子どもリハビリテーション病院の臨床科学者と児童・青年精神科医の主任研究員ダニエル・バリボーは述べています。
不安障害は、中年期(約6~12歳)までに自閉症の子どもの20〜60パーセントがかかえます。
これに対し、発達障害でない子どもは2.2〜2.7パーセントです。
「トークセラピー(例えば、認知行動療法)は、自閉症の不安障害の治療に役立ちます。
しかし、まだ不明なのは、なぜ不安がそんなに多いのか、誰が最も危険なのか、そして、不安になる前に予防できることはあるのか、ということです」
バリボー博士の研究チームの2019年の研究によれば、自閉症の子どもの不安の深刻さは、同質性へのこだわりと比例しています。
しかし、一方が他方の危険因子なのか、両方が互いに影響し合っているのか、共通の原因を共有しているのか、あるいはこれらの可能性の組み合わせが作用しているのかは不明でした。
この関係を解明するため、バリボー博士らは、カナダで行われた長期研究「Pathways in ASD」に登録された自閉症の子ども421人(女性65人、男性356人)のデータを分析しました。
このデータには、親が報告する「児童行動チェックリスト」と「反復行動尺度改訂版」を用いて測定した3、4、7、8、11歳の時点での子どもたちの不安と同一性へのこだわりのレベルが含まれています。
バリボー博士らの以前の研究では、およそ3分の1の子どもたちが12歳までに不安が高まり、その3分の2では6歳から8歳の間に不安が出現したり悪化したりすることがわかっています。
今回の研究で、6歳から9歳の間に同一性へのこだわりが強い、あるいは強まっている自閉症の子どもは、1~2年後に不安症状が出現するリスクが高いことが明らかになりました。
“European Child & Adolescent Psychiatry”誌にこの研究結果が掲載されています。
一般集団において、硬直した考え方は、不安を感じやすくする可能性があることはこれまでに研究で示されています。
自閉症の子どもにおいてのこの強い関連性は、両者に共通のメカニズムを示唆している可能性があると考えられます。
バリボー博士はこう言います。
「同一性欲求や行動の硬直性が高い自閉症の子どもは、成長するにつれて、不安などの精神衛生上の課題に直面しやすくなる可能性があります」
しかし、そのリスクは年齢とともに減少するかもしれません。
なぜなら、11歳時点での同一性へのこだわりは、不安とは関係ないことが、今回の研究で明らかになったからです。
この研究に関わっていない、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の精神医学および教育学の著名な教授であるキャサリン・ロードはこう言います。
「これは素晴らしい論文だと思います。
しかしこの研究に限ったことではなく、私たちの分野全体に言えることですが、唯一の限界は、これらはすべて親の報告書であるということです。
経年変化の説明として、年少の子どもは不安に対処する戦略として同一性へのこだわりを好むかもしれませんが、一方で年長の子どもは不安はあっても、他の方法を使ったり見つけたりするかもしれません」
バリボー博士はこう言います。
「今回の研究結果は、自閉症において不安障害が生じるのを未然に防ぐための治療法を検討する臨床研究について考える根拠を与えるものです」
6〜8歳の子どもが不確実性に耐え、変化に対処できるようにすることを目的とした行動的介入が、臨床的に最も大きな効果を与える可能性があることが、今回の研究結果から示唆されます。
「現在、幼稚園児の子ども日課の遵守に苦労しているのを見ると、私は家族に、何に気をつけるべきか、不安が問題になり始めたらどこに相談すればよいかを助言することができます」
この研究に関与していない米ラトガース大学のカルマジン・リラード成人自閉症学部長のバネッサ・バルはこの研究は、長期的な研究に資金を提供して実施することの重要性も強調するものだと言います。
「これは、子どもの行動研究において、我々が進むべき方向性を如実に示す素晴らしい論文です。
異なる個人の特性、ここでは、同一性へのこだわりと不安が、時間の経過と相互の関連において、どのように変化し、変化するかを考えています。
同一性へのこだわりを理解するために今後の研究では、年長児、10代、成人に、これらの行動を駆り立てる理由、つまり、心配と他の不快感と、それが時間とともにどう変化するかを話してもらうことが必要でしょう。
たとえば、時間が経つにつれて、彼らは自分のこだわりに対する周りの反応について心配するようになるのかもしれません。
特定の秩序を課したり、変化を回避したりする、自分の行動に対する他の人からの否定的な反応などにです」
うちの子を見る限りでは、こだわりの程度とかかえる不安の程度はたしかに関係しているように思います。
うちの子は話すことができないので、大泣きしていても原因がよくわからないことがほとんどです。
抱きしめながら、きっと大きな不安をかかえているのだろうと思っています。
そうした不安を減らせることに役立つ研究にはますます期待します。
(チャーリー)