- 自閉症の成人の就業率はなぜ低いのか?
- 自閉症の人がコーディングやプログラミングに向いているのはなぜか?
- 学校でエドテックを活用することはなぜ重要か?
英国家統計局が2021年2月に発表した調査では、自閉症の成人のうち、何らかの仕事に就いている人はわずか22パーセントでした。一方、英国自閉症協会による過去の調査では、自閉症の成人の77パーセントが仕事に就くことを望んでいると述べられています。
このような矛盾を背景に、自閉症の人がコーディングやプログラミングに適性があることは、研究によって一貫して示されています。
自閉症の人は典型的な左脳型です。
つまり、分析的で理路整然とした考え方をし、順序や予測可能性を伴う作業が得意です。
この現象は、企業部門をはじめとするさまざまな組織で認識されています。
一例として、金融サービス大手のJPモルガンが挙げられます。
2016年、同社は社員やインターンを意図的に自閉スペクトラム症(ASD)の人から採用しました。
同社の「オーティズム・アット・ワーク」プログラムの責任者であるアンソン・パシリオは、自閉症の人たちはそうでない人たちに比べて、パフォーマンスが「かなり上回った」と結論づけています。
自閉症の人が就職する際に直面するハードルはいくつかありますが(中でも照明や音などの環境の変化に対する敏感さ、情報処理に必要な時間など)、デジタル分野の人手不足は2020年4月から33パーセント増加しており、自閉症の人はもっと就職する余地があります。
なので、発達障害をかかえる生徒もそうでない生徒と同じように、学校でエドテックを活用できるようにすることは当然です。
実際、半世紀近く前の研究でも、テクノロジーと「自閉症への介入」の関係が指摘されており、6歳から12歳の年齢層に焦点を当てた研究は、その後大きく発展しました。
大規模な取り組みとしては、UCLの教育・社会学部が運営するECHOESがあります。ECHOESは、5歳から7歳の子どもを対象とした技術強化型学習(TEL)環境で、子どもたちが「他者と注意を共有する、順番を守る、対話を始める、呼びかけに応えるなど、社会的相互作用をうまく行うために必要なスキルを探求し実践する」様子をモニタリングしています。
英バーミンガム大学教育学部重度重複学習障害学科助教授のリラ・コシバキ博士はこう言います。
「テクノロジーは多くの自閉症の人にとって非常に効果的に作用するようです。
自閉症の生徒の学習に非常に有効であることが研究により示されています。
テクノロジーを使えば、自閉症の生徒が苦手とするコミュニケーションや社会的交流を、言語なしに行うこともできます」
テクノロジーは、タスクをより小さなステップに分解するのにも役立ちます。
「自閉症の生徒を含む、特定のタスクで苦労しているすべての生徒の助けになる可能性が高いものです。
タスクの内容を、個人の認知能力や言語能力だけでなく、興味や好みに応じて選択することができます。
これにより、タスクがより適切であると同時に、すべての子どもたちにとって興味深いものとなり、その結果、うまくいく可能性が高くなります」
このように、教育+テクノロジーを意味する「エドテック」は、自閉症の生徒が、社会的コミュニケーションと相互作用(例:コミュニケーションの開始、友人関係の構築と維持、共感の育成)、学力(例:読み書き、計算、推論、注意)、ライフスキル(例:自立、移行、金銭と余暇の管理、ストレスレベルの軽減)などの様々なスキルを開発または習得できるようにするために利用することができるものです。
昨年、CPAT(コンピュータによる注意力向上トレーニング)の実験で、注意力トレーニングが自閉症の若者の学力向上に役立つことが示されました。
この実験は、英バーミンガム大学の研究者と、ブラジルのサンパウロにあるASDリファレンス・ユニットの共同事業として行われたものです。
8歳から14歳までの26人の自閉症の生徒が参加しました。
半数は通常のコンピューターゲームを、残りの半数はCPATプログラムを行いました。
CPATプログラムの内容は、さまざまなタイプの注意を対象とし、徐々に難易度を上げていくトレーニングゲームです。
トレーニング終了直後、CPATプログラムを行ったグループは、10分間で正しく識別して読むことのできる単語の数が向上していました(約44個から約53個に増加)。
また、書き取れる単語の数も約18個から約25個に増加しました。
算数では、CPATのグループは50パーセント以上スコアが向上しました。
これらの改善は、プログラム終了から3ヵ月後の再テストでも維持されました。
対照的に、通常のコンピューターゲームをしていた参加者は、3つのいずれにおいても改善の兆しは見られませんでした。
バーミンガム大学ヒューマンブレインヘルスセンターの主任研究員であるカルメル・メボラッチ博士は、こう述べています。
「私たちは、先生方にCPATを自由に試していただくことで、その潜在的な効果について、より多くのことを発見しています。
自閉症は個人差が大きいので、特定の個人や環境に合わせた介入方法を開発することが成功の鍵になります」
自閉症の場合、支援技術(AT)はローテクからミドルテク、ハイテクまで幅広く、コミュニケーションや学習のための絵のボード、アプリ、ロボットなどあらゆるものが含まれます。
一例として、マイクロソフト社のMicrosoft Teamsに搭載されているReading Progressというツールがあります。
マイクロソフトのジェニファー・キングはこのツールについてこう言います。
「生徒が文章を読みながらビデオとオーディオを記録することが、読書スキルを練習し向上させる機会になります。
教師が個々の生徒やクラス全体の関連データにアクセスし、読解の成功や困難を分析することもできます」
このようなアプローチは、まさに学習のチャンネルを開くものです。
一方、子どものコーディング専門会社コード・ニンジャの教育担当副社長であるグラント・スミスはより職業的なエドテックの例をいくつか挙げています。
■ロボットの開発とロボットとの対話
世界中の学校が、科学、技術、工学、数学をより効果的に教える方法を模索している中、多くの教師は、ロボットが、その物理的性質と信頼できる動作から、自閉症の子供たちにSTEMの概念を教えるのに役立つことを発見しています 。
■Microsoft MakeCode Arcadeのようなプログラミング講座
自閉症の子どもたちが、Blocklyと呼ばれるブロックベースのプログラミング言語を使って、Shark Attack、Save the Forest、Space Adventureなどの様々なゲームを作りながら、様々なプログラミングの概念を探求することができるものです。
プログラミングには変数、ループ、関数、アニメーション、物理、衝突検出などがあり、定型的なアプローチは自閉症の子どもたちに合ったものです。
■マインクラフト
教育向けエディションは、すでに長年利用されています。
音声テキストチャット機能があり、読み書きに困難がある人でも自分のペースで参加できます
学習者が社会的に関与する安全な方法であり、従来の教室での活動を必要としないカリキュラム内容と対話できる、人気のある魅力的な環境です。
「ゲームのダイナミズムは、幼児期や言語が苦手な教室で言語を教えるために実世界で、モノを使うことと同じです。
プレイヤーは、ただ会話をするのではなく、ゲーム内のプロジェクトを成功させるために会話をしているのです。これは、これらの子どもにとって非常に大きなことです」
エドテックは、自閉症の児童・生徒に提供する、あるいは提供できる可能性のある幅広いサポートを提供しますが、考慮すべき限界も数多くあります。
「エドテックは、その機会を最大限に活用するためのリソースがあって初めて、学校にインパクトを与えることができるのです」
スミスは、小学校の32パーセントが、財政的な制約から情報技術機器への抑制しており、中等教育機関でも、この数字は20パーセントであることを調査結果から指摘します。
「これは、恵まれない学校の教師のうち、生徒が十分なデジタルアクセスを持っていると答えたのがわずか2パーセントだったという、調査報告書事実にも表れています。
自閉症の子どもたちが、活躍するために必要なリソースにアクセスできない恐れがあるのです」
テクノロジーが教室に届くまでにも、膨大な数の開発ハードルがあります。
コシバキ博士はこう言います。
「研究者が自閉症に用いる技術をエビデンスに基づく実践(厳密で体系的な科学的研究に基づく実践)として推奨するためには、使用する介入プログラムとは独立した研究者によって行われる、多くの参加者と多くの研究で、その効果が確認される必要があるからです」
このプロセスには最大10年かかり、その間に技術が変化したり消滅したりする可能性があると指摘します。
例えば、高い色のコントラストや高い音は、自閉症の人にとって難しいものになるかもしれません。
技術そのものが自閉症の人が経験する感性に合っているだけでなく、周囲の環境も考慮しなければなりません。
「自閉症の人は、社会的な交流が苦手な場合が多く、光や音などの刺激に過敏に反応することがあります。
自閉症患の人は感覚処理に問題があるため、活動に参加できないことがあるのです」
マイクロソフトのキングは、テクノロジーは自閉症の子供たちが必要とする環境を提供するのに役立つと言います。
「Microsoft Teamsのようなコラボレーションツールを使えば、遠隔地から、あるいは彼らにとって最適な場所で参加することができます。
また、言葉で表現することが難しい自閉症の人でも、テクノロジーを使えば、授業中にTeams Chatでクラスの議論に参加したり、助けを求めたりすることができます」
エドテックの学術環境への導入がもたらす明らかな機会にもかかわらず、その推進者たちはその導入に慎重で、利用者の感受性を意識しなければなりません。
英ランカスター大学のデジタル教育と社会正義の上級講師であるスー・クランマ博士はこう言います。
「エドテックは自閉症の子どもや若者の学習にとって大きな可能性を秘めていることは明らかです。
しかし、こうした機会を実現するためには、この分野でもっと多くの研究が必要です。
オンライン特有のリスクを認識し回避しながら、若者と教師が学習をサポートする活動を作るための技術革新の開発を支える研究が必要です」
LSEの社会心理学教授であり、Digital Futures Commissionのリサーチリーダーであるソニア・リビングストンはこう言います。
「自閉症の若者は、典型的な発達をしている同年代の若者に比べて、デジタルメディアのプラットフォーム、特にビデオゲームにほとんどの余暇を費やしてしまう傾向があります。
彼らの両親は、彼らがテクノロジーに『固執』『執着』『中毒』になったりして、他の社会的機会や学習の機会を逃してしまうことを心配しています」
一方で、デジタル活動が社会的に評価され、ポジティブなアイデンティティ(才能や「ギーク」としてのアイデンティティなど)や、場合によっては資金提供による学習機会(例:コーディングキャンプやエドテックを中心とした放課後のクラブなど)が与えられることも理解しています。
「自閉症の若者にとってエドテックを使うことの利点を指摘する証拠があります。
しかし一方で、それが子どもを孤立させたり、不平等なアクセスや偏見を感じさせたりする、といった否定的な結果の証拠によって相殺されてしまっているのです」
(出典:英Education Technology)(画像:Pixabay)
学校で行う正式な「教育」となると、なかなか導入が進まないことは想像できます。
最大の原因は、メリットに賛同する親、デメリットを主張する親、それぞれを尊重しなければならないという決断を妨げる困難、そして進められなくてもそれらを言い訳に利用できること、だと思っています。
マインクラフトなどを楽しめるお子さんであれば、まずはお家で親子一緒に楽しむことが、手軽にテクノロジーのメリットを活かせる方法かなと思います。
学校でマスキングする発達障害の娘はマインクラフトに癒やされた
(チャーリー)