- 家族が定期的にボードゲームをすることで、どのような影響があるのか?
- ビデオ療法を受けた子どもたちの自閉症診断の割合がどのように変化したのか?
- ビデオ療法が家族にどのような変化をもたらしたのか?
豪メルボルンのスレート家では、週に一度、台所のテーブルでボードゲームをするのが日課となっています。
5歳のカーソンは、父親のジェームスや家族の友人に囲まれながら、お気に入りのゲームをプレイしています。
母親のシェリルも、生後12週間のジェフリーを膝の上に乗せて参加します。
カーソンと父親のジェームズは自閉症です。
シェリルは夫と息子が自閉症と診断されたことが、家の中の整理整頓に調和をもたらしたと言います。
「私たちは、さまざまなことに猶予と余裕を与え、実際に私たちの家族を助けることになる回避策を考え出しました」
長男のカーソンは2歳半のときに、同年齢の他の子どもたちとは異なる発達をしていることにシェリルが気づき、診断されました。
36歳のジェームズは、自分の子ども時代と似ているところがあると思い、すぐに診断を受けました。
「でも、今は私たちのことが理解できます。
我が家では毎日のように自閉症の話をして、良いことだと言っています。
そんな風に考えられる私たちの心はなんて素敵なんだろうってね」
2週間に一度、言語病理学者でメルボルンのラトローブ大学の講師であるジョディ・スミスがカメラを持ってスレイド家にやってきます。
彼女は隅に陣取り、シェリルがレンズの前でジェフリーと遊んでいる間、録画ボタンを押します。
これは、同大学とパースにあるテレソン・キッズ・インスティテュートの研究プロジェクト「Communicating and Understanding Your Baby study [CUB]」の一環です。
ジェフリーは生まれる前からこのプロジェクトに参加しています。
遊びが終わると、スミスはシェリルと一緒に映像を分析し、記録されたやりとりについてシェリルを指導しています。
「私たちが探しているのは、赤ちゃんからのコミュニケーションの合図なんです。
赤ちゃんが首をかしげたり、緊張していたりするのは、どういうことでしょうか?
これはコーチング・モーメントと呼ばれるもので、チャンスを逃したり、ママやパパがもう少し違うことをできたかもしれないと思う瞬間なんです」
シェリルは、以前なら見逃していたようなことを見逃さなくなったと言います。
「この子が疲れているときは、私たちを見ずによそ見をし始め、授乳や睡眠のために体を傾けようとし始め、うめき声をあげながら、まるで『私を困らせないで!』と言っているようです。
このおかげで、カーソンと弟をつなぐこともできました。
今では私のところに来て、『ジェフリーがお腹すいたって言ってるよ』とか『ジェフリーが眠いって言ってるよ』と言ってくれるんです。
お兄ちゃんになりました」
昨年2月の発足以来、CUBは自閉症、ADHD、知的障害の家族歴を持つ数十人の妊婦の家族を集め、生まれてから2年間、新生児の発達を追跡調査してきました。
参加者全員が重要な発達の時期に5回の評価を受け、参加者の半数は、発達の最初の8カ月間に、シェリルとジェフリーが受けている、2週間に1回のビデオ療法を10回受けています。
このビデオ療法の設計には、英国マンチェスター大学の研究者たちが協力しています。
「子どもたちの発達は、初期の環境の質がとても重要であることが分かっています。
CUBの目的は、発達が少し異なる赤ちゃんを持つ可能性の高い家庭を対象に、早期に、親が子どもと積極的に交流する方法を確立するのを支援することです。
ビデオでのフィードバックは、特にコミュニケーションが曖昧な初期の段階において、赤ちゃんとご両親の因果関係を客観的に見ることができる方法となります。
私たちは親を変えたいのではありません。
親がすでにやっていることを本当にうまく補強したいのです」
自閉症と診断されるのは2歳から6歳までが大半で、支援はその後となるのが一般的です。
CUB研究の共同リーダーであるアンドリュー・ホワイトハウス教授によれば、多くの親はもっと早い時期に我が子の違いに気づいていると言います。
「発達障害の子どもは生まれながらにして発達の遅れをもっています。
そして、世界との相互作用の結果が、発達障害の道をどんどん進んでいくのです。
最終的な診断がされるまで、幼い子どもたちは、医療機関を渡り歩き、そこからやっとサポートが開始されます。
しかし、親たちは、非常に幼い頃から、子どもが異なる発達をしていることがわかっています」
ホワイトハウス教授は、その結果を彼は「パラダイムシフト」と表現する、研究の結果を昨年9月に発表しています。
この研究では、CUB研究のように神経多様性の家族歴がある子どもたちではなく、すでに発達の遅れが見られる年長の子どもたちに、同じビデオ療法を行いました。
子どもたちは9カ月から14カ月の間にビデオ療法を受け、18カ月、2歳、3歳のときに、この研究から独立した医師によっ自閉症かどうかが評価されました。
比較対象とされた、ビデオ療法を受けていない子どもたちも、同じように評価をされました。
その結果、ビデオ療法を受けていない子どもたちは約20パーセントが自閉症だと評価されました。
一方、ビデオ療法を受けた子どもたちでは、それが6.7パーセントとなっていました。
ビデオ療法を受けることで、自閉症と評価された子どもは2/3に減少したのです。
「私たちが発見したのは、基本的に、発達障害を人生のできるだけ早い時期に発見すれば、発達障害による行動を起こすことを、減らせるということです。
ビデオ療法の結果、自閉症と評価されることがなくなっても、自閉症であることには変わりませんが、社会との関係で起きる困難、かかえる障害の減少につながるのです」
40歳のクリスティーナ・ガスタレナメの息子、フランクルは生後6ヶ月のときに突然喋らなくなりました。
そして、ビデオ療法を受けました。
「ポーズを見せることが本当に重要でした。
息子が興味を失っていたら、急いでポーズをとって息子の反応を待ちました。
アイコンタクト、表情、声のトーン、たくさんの真似をして、息子への反応をタイムリーに行います。
息子の言葉にあわせて会話をするようなものなので、息子から多くのことを聞き出すことができたのだと思います」
現在、フランキーは6歳になりました。
進学を控えた昨年に、自閉症と診断されました。
「ビデオ療法は、私たちにとって、お互いを理解するための新しい扉を開いてくれました。
マイルストーンが達成されていない部分を特定し、フランキーのニーズに合ったコミュニケーションテクニックなどの戦略を実行するのに役立ちました」
このビデオ療法は、まだAICESやCUBなどの研究プロジェクトや、イギリスの一部のプロジェクトで使われているのみです。
Autism Awareness Australiaのディレクターでもあるアンドリュー・ホワイトハウス教授は、このセラピーが他の多くの療育と異なる点は、子どもの環境に早くから着目していることだと言います。
「世界を理解できない子どもを責めたり、子どもを変えようとするのではありません。
そうでなく、子どもに適応するように親を変えるのです。
私たちは、子どもが理解されていると感じることができる方法、子どもの成長を助ける美しい、繊細な子育てを教えているのです」
ラトローブ大学CUBのシニアプロジェクトマネージャー、アレックス・オーリッチは、このプロジェクトの本当の結果が出るのは、まだ数年先だと言います。
「このプログラムが子どもや家族に利益をもたらすかどうかは、まだわかりません。
もちろん希望は持っています。
この研究は本当に重要で、参加するすべての家族が、自閉症の研究に本当に価値のあるものを提供することになるのです」
長男の自閉症のカーソンがビデオ療法を受けているシェリルは、生後12週間のジェフリーについてこう言います。
「もしジェフリーも自閉症だとしても、早くから対応することで、自閉症でない子としてサポートを受けないままにしなくて済みます」
(出典・画像:豪SBS News)
うちの子は、2歳くらいのときに言葉がなくなりました。
最初で最後となりましたが、一度だけ「おかえり」と言ってくれたことは忘れません。
こうした対応をすれば、再び話せるようになったりしたのかもしれません。
さらなる研究に期待します。
(チャーリー)