- 人工内耳は自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちにどのような効果がありますか?
- 自閉症と難聴を併せ持つ子どもたちに人工内耳は有効ですか?
- 自閉症と難聴を持つ子どもが社会的相互作用を改善するためにはどのような支援が必要ですか?
米シカゴのAnn & Robert H. Lurie Children’s Hospitalの研究によると、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちに人工内耳を装用して聴力を回復させると、話し言葉を理解しやすくなり、社会的相互作用が高められることがわかりました。
この研究は、人工内耳を装用したASDの子どもたちのうち、平均追跡期間が10.5年と長い期間の結果を報告しています。
この研究結果は、学術誌「Otology & Neurotology」に掲載されました。
「今回の結果は、人工内耳の埋め込みが自閉症スペクトラム障害の聴覚障害児に明らかな利益をもたらすという、増えつつある証拠に加わるものです」
そう、上級著者のナンシー・ヤング医学博士は語っています。
「聴覚が改善されることで、音声言語が利用できるようになり、認知やコミュニケーションの可能性が高まるとともに、これらの子どもたちが家族とより密接に関わることができるようになります」
この研究に参加した子ども達の大多数(73パーセント)は、一日中一貫して人工内耳を使用しており、そのうち45パーセントは、聴覚のみ(視覚的な合図なし)で話し言葉をある程度理解できるようになりました。
また45パーセントは、コミュニケーション全体の一部として、ある程度話し言葉を使用していました。
86パーセントは、インプラント後に社会との関わりが改善されたと保護者が報告しています。
ある親はこう報告しています。
「人工内耳なしでは、彼は自分の小さな世界に閉じこもり、音も出ず、他人と目を合わせることもありませんでした。人工内耳は、息子の個性を私たちに引き出してくれました」
最近の推計によると、アメリカでは88人に1人の子どもがASDと呼ばれる、コミュニケーションや社会的相互作用の障害を特徴とする複雑な発達障害であることが分かっています。
ASDを持つ健常な聴覚障害児の25〜30パーセントは、コミュニケーションの手段である話し言葉を発達させることができません。
したがって、ASDと高度難聴を併せ持つ子どもたちは、話し言葉の発達を制限するものを2つもかかえています。
この研究に参加した子どもたちは、ASDでない人工内耳を利用している子どもよりも話し言葉の理解や使用の発達が遅くなっていました。
ASDの子どもたちは、ASDでない子どもたちに比べて感音性難聴(SNHL)の有病率が高いことが報告されています。
逆に、SNHLのある子どもは、聴力が正常な子どもよりもASDの割合が高いことも報告されています。
この研究に参加した子どもたちのほとんどは、人工内耳の装用後にASDと診断されました。
その理由は、ほとんどが人工内耳の装用を幼いころにしたこと、また、著しい難聴がある場合にはASDの診断が難しくなることが関係していると思われます。
「この集団における結果の範囲を理解することは、これらの子どもたちが適切なサポートやサービスを受けられるように、両親や教育者にカウンセリングするために重要です」
そう、聴覚士でこの研究の共著者であるベス・ターニスは述べています。
(出典:米Ann & Robert H. Lurie Children’s Hospital of Chicago)(画像:Pixabay Wikimedia)
音を大きくする「補聴器」と違って、「人工内耳」は外科手術が必要になりますが、こうした効果もあるのですね。
(チャーリー)