- 工学を学ぶ障がいを持つ学生の壁はどのような点によって生じるのか?
- 新しい工学部の建物にはどのような配慮がなされているのか?
- エンジニアリングにおいて、異なる人材を取り入れることの重要性は何に関連しているのか?
ある大学では、工学を学びエンジニアとして働く女性を増やすために、さらには自閉症など「神経多様性」と呼ばれる症状を持つ学生の壁をなくすために、教育方法を変えています。
トーマス・ディクソンは、昔から物を分解して仕組みを調べるのが好きでした。
「子どもの頃に、実際に何かを作って、それが機能して人類に役立つという複雑なことが好きになりました」
技術的な問題解決の才能をもつだけでなく、トーマスは自閉症をかかえています。
騒音やその他の感覚的な刺激に非常に敏感です。
そのため、典型的なエンジニアリングのワークショップは、トーマスにとって「悪夢」のようなものでした。
「たくさんの機械が同時に動いている部屋にはいられません」
30人もの学生が一斉に作業したり話したりする大教室は、トーマスの感覚を狂わせました。
大学の工学部の教室を見て回ると、まさにそれを目の当たりにします。
機械、学生、騒音、喧騒に満ちた部屋がたくさんあります。
しかし、英ウエスト・オブ・イングランド大学(UWE)では、トーマスのような人たちのことを考えて、まったく新しい工学部の建物を建設しました。
従来の大きな作業スペースに加えて、小グループや一人で作業できる小さなスペースも設けられています。
また、自閉症の学生の意見を取り入れて設計された部屋もあります。
リサ・ブロディ教授は、自閉症の学生がゆっくりとくつろげるように設計された新しいクワイエットルームをトーマスに見せてくれました。
ブロディ教授はこう言います。
「トーマスは私に恐ろしいと言いました。
ホワイトウォッシングという拷問があることを知っていますかと私に尋ねました」
自閉症の人は、感覚が過敏になっているので、真っ白な明るい部屋では安心できません。
そこで、新しい照明を導入し、コントロールで色を変えられるようにしました。
また、柔らかなリラックスできる家具も導入しました。
「最初からうまくいくわけではありませんが、重要なのは、学生と一緒になって、その人に合ったものを作ることです」
ブロディ教授は、トーマスのような学生のニーズを満たすことは、単に平等に扱うというだけではないと言います。
工学は彼らを必要としているのです。
「もし、同じタイプの人たちをエンジニアリングに引き入れ続ければ、同じ種類のソリューションしか得ることができません」
UWEでは、より多くの女性をエンジニアリングの世界に引き込もうとしています。
そのためには、エンジニアに対する多くの人の認識を変える必要があります。
ローラ・ディクソンはこう言います。
「私は子どもの頃、エンジニアリングというものを知りませんでした。
男の子がやるものだと思っていたし、車を修理したりするものだと思っていました」
ローラは28歳で入学しました。
そこで初めて、エンジニアリングは機械を相手にするだけでなく人を相手にするものだと知りました。
現在はメンテナンスエンジニアリングチームを率いています。
「メンテナンス・エンジニアリングとは、人を管理し、ワークショップを管理することです。
時にはバスの下に潜って油を浴びることもありますが、それは問題点を確認するためです。
それは私の仕事のごく一部です」
ローラは現在、若い女性にエンジニアリングの仕事を積極的に勧めています。
「世界の50パーセントは女性なのですから、私たちが設計しなければ人口の半分に対応することはできません」
新しくなったUWEの校舎ではコラボレーションのためのソーシャルスペースも多く設けられています。
ローラにとって好きな空間は活気があり、忙しく、騒がしいところです。
トーマスの好みとは正反対です。
学生ごとに異なる空間、異なる雰囲気を新校舎は提供しています。
トーマスはこう言います。
「障がいがあるからといって、何もできないわけではありません。
違う方法で学ぶ必要があるだけです」
ブロディ教授は、長年にわたってエンジニアリングを教えてきましたが、さまざまな種類の学生を教える方法をまだ学んでいる最中だと言います。
「発達障害をかかえる学生が実験室での騒音や音に悩んでいたら、別の教え方をしなければなりません。
しかし、彼らは絶対にできるし、他の人よりもうまくできることが多いのです」
(出典・画像:英BBC)
同じタイプの人だけが取り組んでいたら、同じタイプの解決策しか生まれなくなってしまう。
そのとおりだと思います。
だからこそ、違うことが求められてきたのです。人類の歴史においても。
(チャーリー)