米マイアミ大学で、発達障害である自閉症の人たちが安全と雇用のスキルを学べ、練習できる拡張現実アプリケーションの研究開発が行われています。
アレクサンドラ・ラミレスの2歳の子どもは、テーブルに座ることを拒否し、自分の欲しいものや必要なものを周りの大人に声で伝えることが、1年前はできませんでした。
何か必要なものがあるとすぐに怒って泣いてしまうので、家族は彼が何を求めているのかを必死に考えていました。
そして、発達障害や自閉症スペクトラムと診断された子どもたちを対象とするマイアミ大学のIBIS(集中行動療育サービス)クリニックを見つけ、治療を開始しました。
今では、絵文字を指差したり、叩いたりして、自分の欲しいものを伝えることができるようになりました。
また、おかわりが欲しいときや、もう一度ゲームをしたいときには、手話で「もっと」と言えるようになりました。
母親によく抱きついて、「もっと」と言ったらジャンプを続けてあげると、にっこり笑います。
この顔の反応は、一瞬ですが、これは重要なステップです。
「以前はいつもイライラして頭を振っていましたが、今では欲しいおもちゃを指差して言えるようになりました。そして、いくつかの言葉を使い始めています」
そう、ラミレスは言います。
この子の成長はゆっくりとしていて、毎日練習しなければなりませんが、社会的に重要な合図を理解していく姿を見て、チームのメンバーは感激しています。
この子は、IBISクリニックで週に3時間を過ごす、毎年15〜20人いる子どもの1人です。
そして今、クリニックの責任者の一人は、テクノロジーを駆使して、スペクトラムの人たちにサービスをさらに拡大できる新しい方法を模索しています。
2015年にスタートしたIBISクリニックは、米南フロリダ地域の生後18カ月から3歳までの子どもたちに、応用行動分析(ABA)療法を提供しています。
スタート時から、子どもたちには、行動分析学修士課程の大学院生でもある個別のセラピストがつきます。
それぞれのセラピストは、経験豊富な大学院生と芸術科学部心理学科の教員とペアを組み、長所と短所に基づいてそれぞれの子どもに合った学習プランをチームで考えます。
そして、毎日のセラピーでは、少なくともCOVID-19が流行している間は、教員と2年生の学生がタブレットを通してセッションを見守り、ワイヤレスのイヤホンを通してフィードバックや指導を行います(通常は対面で一緒に作業を行います)。
米国疾病対策センターによれば、米国では54人に1人の子どもが自閉症スペクトラムと診断されています。
男の子は女の子の4倍の確率で診断されています。
これまでの研究によれば、自閉症スペクトラムの子どもたちは、早期に治療を開始すればするほど、学校で求められるような社会的規範にうまく適応できるようになります。
このクリニックの共同ディレクターであり、マイアミ大学・ノバサウスイースタン大学自閉症・関連障害センター(UM-NSU CARD)のアソシエイトディレクターでもあるアニバル・グティエレス心理学教授はこう言います。
「IBISクリニックが、3歳になる前の重要な時期の幼児を対象としているのはそのためです」
このクリニックは、ABA療法の専門家である教職員が協力して運営しています。
ABA療法とは、エビデンスに基づいた実践方法で、幼い子どもたちが成長するために必要なスキルを身につけるために、たくさんの反復練習を行います。
「その結果は、しばしば驚くべきものでした。セラピストは、社会的コミュニケーションの構成要素である共同注意、遊び、模倣、言語に焦点を当てることで、子どもたちの進歩を文字通り毎日記録しています」
そう
語るのは、IBISクリニックの4人の共同ディレクターの1人であり、応用行動分析学修士課程の実習コーディネーターでもある、米国公認行動分析士のエレーヌ・エスパノラ・アギーレです。
このクリニックの目的のひとつは、子どもたちが学校生活に順応できるように準備することです。
「また、子どもたちには自分の声を見つけてほしいと思っています。
子どもたちはコミュニケーションをとっていますが、それは必ずしも私たちが理解できる方法ではありません」
言葉が全く通じず、写真に写っている家族を識別できない子どもたちが、1年後にはおしゃべりをしたり、少し言葉を発したりしてクリニックを後にすることもあります。
また、セラピー開始時には目を合わせることができなかったのに、その後はあまり促さなくてもセラピストや他の子どもと対話できるようになる子どももいます。
「一人ひとり結果は違いますが、どの子にも必ず変化が見られます」
そう、エスパノラ・アギーレは言います。
「私たちは、子どもの人生に直接影響を与えることができると知っています。
なので、ここにいることを誇りに思っています」
IBISクリニックの成果は心強いものですが、グティエレス教授はその限界も認識しています。
自閉症の子どもたちに効果的な治療を行うためには、1対1の時間を多く必要とします。
しかし、それに応えられるほどセラピストや医師の人数がいないことはよくあります。
IBISクリニックに登録している小さな子どもたちは、毎週12時間のセラピーを受けていますが、もっともっと多くの時間を必要としていると彼は言います。
そこでグティエレス教授は、2つの学際的なチームで、患者がクリニックで過ごす時間を補うためのバーチャルリアリティや拡張現実のアプリケーションを開発しています。
一つは、「統合的知識のための大学研究室(U-LINK)」チームで行っています。
自閉症の青少年や大人が、ハンバーガーの作り方、手の洗い方、自分で洗濯する方法、オフィス空間に慣れる方法など、自立のためのスキルを学べるアプリケーションの開発に取り組んでいます。
もう一つは、グティエレス教授が、自閉症の幼児を対象に、形、色、動物、文字、数字の識別方法を学ぶためのバーチャルリアリティのアプリケーションの開発に取り組んでいます。
「自閉症スペクトラムの子どもたちは、何かを学ぶのに何日も何週間もかかることがあります。
そして多くの場合、より多くの練習を必要とします。
こうした反復的な学習は、テクノロジーの助けを借りるのに適しています」
グティエレス教授は、アプリケーションが完全に開発されたら、そのいくつかをIBISクリニックでテストしたり、あらゆる年齢の自閉症の人にこのテクノロジーが役立つかどうかを確認したいと考えています。
「例えば、自閉症の子どもたちは、数時間のセラピーを受けただけで終わってしまいます。
このアプリは、その後の宿題のようなものになります。
本当にゴーグルは子どもたちを正しい方向へ導くことができるでしょうか?」
人工知能が進歩すれば、IBISクリニックのセラピストが子どもたちのやる気を引き出すように、こうしたアプリケーションが子どもたちの好みを学習することも可能だと、インタラクティブ・メディア学科の学科長であり、大学のエクステンデッド・リアリティ(XR)イニシアチブのディレクターでもあるグリンフェーダーは言います。
例えば、クリニックに通うアレクサンドラ・ラミレスは子どもが大好きなキャラクターの「ベイビーシャーク」の本やパズルを用意して、待ち時間を過ごしています。
これが将来的には、子どもが好きな歌やキャラクターをアプリケーションが学習して、何かの課題に成功するたびにその歌を提供することも可能になります。
グティエレス教授はこう言います。
「自閉症スペクトラムの子どもや大人は、トレーニングや経験、コーチングを必要とすることがよくあります。
私たちは、彼らの自立を支援するために、テクノロジーをどのように利用できるかを考えています」
(出典・画像:米マイアミ大学)
療育の現場から、アプリ開発まで。
大学だからできることだと思います。
学問の領域、学部を超えてますますこのような取り組みが世界で行われることを期待しています。
(チャーリー)