これまで多くの場合、自閉症の人の社会的成功に向けての努力は自閉症でない人と同じように考え、行動できるようになり、自閉症の特徴を隠すことに焦点が当てられてきました。
しかし、米テキサス大学ダラス校の心理学の研究者たちは、別のアプローチに焦点を当てています。
自閉症でない人が自閉症を理解し、自閉症の人を受け入れるようにすることです。
研究者たちは、”the journal Autism”のオンライン版で研究結果を発表しました。
この研究では、自閉症でない人に自閉症の人がかかえている課題、そしてもっている強みを知ってもらうことで、自閉症に対する偏見や誤解を減らすことができる。
しかし、克服することが困難な偏見もあることが示されました。
この研究を行ったのは、米テキサス大学ダラス校の行動脳科学部の心理学博士課程のデジレー・ジョーンズとノア・サスーン准教授です。
「私たちのこれまでの研究では、しばしば自閉症の人は不器用であまり好感が持てないと、ステレオタイプ化されていることを示しています。
自閉症の人と友だちになりたくない、関わりたくないという人もいます。
私たちはそうした考えに抵抗したいと思っています」
そう、デジレーは言います。
発達障害である自閉症は、思考、感覚、コミュニケーションの違いによって特徴づけられ、自閉症でない人との交流やつながりが困難になることがあります。
自閉症の人の中には、日常生活の中で多くの支援を必要とする言葉を話すことができない人もいれば、高度に話すことが得意で、支援をあまり必要としない人もいます。
デジレーの今回の研究は、知的障害のない自閉症の成人が経験することに特に焦点を当てたものになります。
自閉症でない人たちに、自閉症についての理解を促進させることは、自閉症の人たちの社会的経験を改善する方法の哲学的な転換点といえます。
デジレーは、この考え方は人種や民族に関する研究から借りていると説明します。
「自閉症の人の行動に焦点を当てることは、自閉症の人たちに社会的排除の重荷を負わせることになります。
人種に関する研究では、人種的偏見を持っている人たちは、その人種のすべての人を同一の存在として見る傾向があることを示唆しています。
しかし、実際にそうした人たちに接することで、そのような固定観念を壊すことができます。
私たちは、同じ原理が自閉症にも当てはまると考えています」
今回の研究に参加した、自閉症でない238人の成人は3つのグループに分けられました。
第一のグループは自閉症の人と一緒に開発した、自閉症の人を受け入れることを薦めるビデオを見ました。
第二のグループは自閉症に言及していない一般的なメンタルヘルストレーニングのプレゼンテーションを見ました。
第三のグループはそうしたものは一切見ませんでした。
参加者はその後に、自閉症についての彼らの明示的および暗示的は、自閉症に対する偏見についてのテストを受けました。
「自閉症についてのビデオを見ることで、自閉症の事実を提示し、受け入れを促進する。
それは、自閉症の人と仲良くなる、関心をもつ、話す方法のヒントを与えます。
また、自閉症の人がかかえる感覚的な過負荷や避けるべきことも学べます」
その後のテストでは、ビデオで自閉症の成人を見て、自閉症についての知識と否定的な偏見を測定し、自閉症の人の機能的能力についての考えを測定します。
暗示的な偏見についても調査し、無意識のうちに自閉症の人に否定的な個人的属性を関連づけているかどうかも測定しました。
「ビデオを見て自閉症について学んだ自閉症でない人たちは、自閉症の人との社会的交流に関心を持ち、自閉症についての誤解が少なくなりました。
そして、自閉症の人の能力についてより正確な理解を示した事実は、素晴らしいことです」
そう、サッソン准教授は言います。
予想通り、自閉症の人をビデオで学び、理解した人たちのグループでは、自閉症の人に対してより多くの社会的関心を示し、より肯定的な第一印象をもたらすなど、明示的な尺度で自閉症の人に対するより大きな理解と受容が示されました。
しかし、ビデオで学んだ、学ばない、全てのグループの参加者において、自閉症の人と不快な個人的属性が暗黙的には結び続けてられていました。
「暗黙の偏見は、変わることが難しい、根底にある信念を反映したものです。
時間をかけて強化されたこの考えは、簡単には変化しづらいのでしょう」
自閉症についての頑固な固定観念の多くは、「グッド・ドクター」のようなテレビ番組や「レインマン」のような映画などメディアでの描写によって強化されています。
「よく描かれる自閉症の人のイメージとしては、白人男性ですばらしい記憶力を持っている人。
そして本当に頭は良いのですが、社会的にはとても不器用で、感情や情熱がないように描かれることがあります。
こうしたイメージは有害である可能性があります。
自閉症の人たちがそれぞれ、どれほど変化に富んでいるのかを反映していないからです。
『自閉症の人に会っても、それは一人の自閉症の人に会っただけ』
ということわざがあります。
自閉症の人たちはそれぞれ異なります。
それぞれのニーズ、強み、困難さはとても異なります。
そのため、自閉症の人を代表するイメージは本当には存在しないのです。
ですから、実際の自閉症の人たちを知り、先入観をなくしていくことは、自閉症の人たちをとりまく社会的な環境を向上させることに役立つはずです」
デジレーは自閉症の人たちの参画が、その向上には不可欠であるとも言います。
「自閉症の人たちは、自分たちの話を聞いてもらえない、見下されている、あるいは気にかけてもらえていないと感じることがよくあります。
私たちは自閉症の人たち自身が、研究に参加することを歓迎します。
実際に自閉症の人たちが何が好きで何を研究に望んでいるのかを私たちに話してくれるようにするのです。
私たちの研究室には、研究で大きな役割を果たしている自閉症の修士課程の学生や学部生が何人かいます。
彼らは私に多くのことを教えてくれました」
サッソン准教授は、自閉症についての理解、受容の学びの結果の持続性についてはまだ不明であるものの、十分に検討されたトレーニングは効果的なものになるはずだと言います。
「今回の研究で行った30分間のプレゼンテーションは、魅力的で面白かったし、説得力のある一人称の語り口も多く含まれていました。
トレーニングを経験した自閉症でない人たちが、自閉症の人たちとの社会的交流に興味を持ち、自閉症についての誤解が少なくなり、自閉症の能力についてより正確な理解を報告したという事実は、ある種のサクセスストーリーです。
しかし、効果が時間の経過とともに持続するかどうかの疑問があります。
このようなトレーニングプログラムは一過性のものにしかならない可能性もあるからです」
将来の研究で、デジレーとサッソン准教授は、一般的な人口よりも高いレベルのうつ病、不安、自殺を経験している自閉症の人たちの精神的健康と幸福を向上させたいと願っています。
デジレーはこう言います。
「自閉症ではない人たちの世界で自閉症であることは簡単なことではありません。
世界が自閉症の人がもつ違いをもう少し受け入れ、歓迎すれば、自閉症の人たちは生活や仕事でもっとうまくやっていけます」
(出典:米テキサス大学ダラス校)(画像:Pixabay)
その人の違いをなくそうとするよりも、
その人の違いを受け入れるようになったほうが、大きな幸せになると思っています。
(チャーリー)