話すことが困難な自閉症の人は、自分の名前の音と他の人の名前の音を区別することができないことが、新しい脳波検査(EEG)の研究で明らかになりました。
また、雑音から特定の音を聞き取る、フィルタリングにも困難をかかえていました。
話すことが困難な自閉症のたちの中で、予期せぬ音に対する神経反応が弱い人々は鼻歌を歌ったり、大きな音がする環境では耳を覆ったりするなど、非定型の聴覚行動をとることがあることもわかりました。
これらの研究結果から、発達障害である自閉症の人たちは、周囲の音からどの音に注目すべきかを判断するのに苦労している可能性があると、米ボストン大学の研究員ソフィー・シュワルツは述べています。
典型的な乳児は、生後4~9ヶ月で自分の名前を言っている人の方に頭を向けます。
しかし、後に自閉症と診断された乳児はそうでないことが多くあります。
最近まで、この反応の欠如が脳の反応に現れているかは研究されていませんでした。
2018年に発表された最初の研究では、自閉症の成人の脳は、典型的な人とは異なる反応を示すことがわかっています。
この研究は、言葉を話すことが困難な自閉症の人の反応を探るのに極めて重要な最初の研究です。
この研究に関わっていない米ペンシルバニア大学の放射線学の教授であるティモシー・ロバーツはこう言います。
「意思疎通が困難だからといって、言葉を話すことができない自閉症の人を無視していいはずがありません。
この研究は、そうした人たちについて知ることを可能であることを証明するものです。
そして、それを行っていくべきです。
私たちにとって大きな前進です」
今回の研究を行ったチームは、脳波を使って脳の反応を測定しました。
ミスマッチ応答として知られているその一つは、音を聞いた後に約200ミリ秒発生し、脳が別個の音を認識しているかどうかがわかります。
異常に大きな音を識別したり、自分の名前の最初の音節を識別します。
400ミリ秒後の関連する反応は、その音が自分にとって意味があるものかどうかを識別していることを示しています。
研究チームは13歳から22歳までの、言語的に流暢な27人と最小限の言語しかもたない自閉症の20人、そして比較対象とする自閉症でない27人について評価をしました。
参加者は、自分の名前と他の二人の参加者の名前を暗唱する女性の声の録音を聞きます。
男性の声がバックグラウンドノイズとして英語の文章を朗読し、「カクテルパーティー効果」と呼ばれる、群衆の声から自分の名前を呼ぶ声を聞き分ける能力を測定しました。
自閉症でない人と言葉が流暢な自閉症の人は、雑音を背景にしても、自分の名前に対して反応を示し、他人の名前には反応を示しませんでした。
つまり、自分の名前の音を重要なものとして認識していることが示されました。
対照的に、言葉を話すことが困難な自閉症の人はその反応を示しませんでした。
この研究結果は、”Autism Research”に掲載されています。
研究を行ったシュワルツはこう言います。
「聴覚処理のこの違いが、最小言語の自閉症の人たちの言語の難しさに影響を与えていることを示唆しています。
自閉症の人が、相手が自分とコミュニケーションを取ろうとしていることを理解するのに苦労しているとしたら、それは重要な問題です」
雑音のある背景がなくても、言語が流暢な自閉症の人、話すことが困難な自閉症の人、どちらも自分の名前と見知らぬ人の名前に対して同じく脳が反応をしていたのに対し、自閉症でない人はそうではありませんでした。
研究チームは研究に参加した子どもたちの親に、子どもが騒がしい環境で気が散るかどうか、自分の名前が呼ばれたときにすぐに反応する頻度はどれくらいかなど、子どもがもつ音のフィルタリング能力について質問をしました。
その回答結果によれば、言語が流暢な自閉症の人、話すことが困難な自閉症の人、どちらも自分の名前を呼ばれても同じくらいの頻度で反応することがわかりました。
そして、どちらのグループでも自分の名前に対する脳の反応が強い人の方が、背景の音からフィルタリングする能力が高いことがわかりました。
次に行われた研究では、研究者チームは、自閉症の人たちが音に対処するために鼻歌など行う頻度を動画を撮影し、測定しました。
5歳から21歳の、言葉を話すことが困難な自閉症の人47人と言葉が流暢な自閉症の人36人を比べると、言葉を話すことが困難な自閉症の人たちがこれらの行動を頻繁に行っていました。
しかし、視覚的な刺激に対する反応では、言葉を話すことが困難な自閉症の人と言葉が流暢な自閉症の人とで違いはありませんでした。
目を覆ったり、明かりを消したり、視覚に関連した過敏症に対処するためにとった行動の頻度は同じでした。
また、鼻歌などを行う、言葉を話すことが困難な自閉症の人たちは、絵に基づいた語彙テストでも言語を理解する能力が低いことが測定されることが多くありました。
また、異常に大きな音に対しても、脳の反応が弱くなっていました。
「これらの研究をまとめると、言葉を話すことが困難な自閉症の人においては、音への感受性が言葉を話す能力にも影響を与えていることが強く考えられます。
これらの障害の根底にある神経メカニズムを知る一歩になります。」
そう、今回の研究の責任者である米ボストン大学の心理学、ヘレン・タガーフラスバーグ教授は言います。
今回の研究について指摘される点もあります。
自分の名前と見知らぬ人の名前との聞き取りでの脳の反応の比較については、聴覚処理の違いを測定しているのではなく、親しみに関連する違いを測定しているのかもしれないと、この研究に関与していない、ベルギーのアントワープ大学の臨床心理学者、モニカ・ダールは指摘します。
研究結果に関与しなかったカナダのホスピタルフォーシックチルドレンチルドレンの機能的ニューロイメージング担当ディレクターであるマーゴット・テイラーは、この研究結果は言葉を話すことが難しい子どもを相手にする医師にとって重要だといいます。
「幼い子供たちに療育を行っている人たちが、子どもたちが自分たちの名前を呼ばれていることを理解できていなことを知れば、それは役に立つはずです。
子どもを相手にするにあたって、それは本当に基盤となることだからです」
今回の研究チームは、今後の研究で、乳幼児の名前の反応、特に言葉を話すことができない子の名前の反応を調べる必要があると述べています。
これらの研究は、なぜ自閉症の人が他の人よりも言語の困難をかかえているのかを明らかにするのに役立ちます。
「明らかにこれらの聴覚に関わる能力が、自閉症の人たちに影響を与えています。
そして、言語能力にどれほどの影響を与えているのかを理解することが重要です」
うちの子も小さな頃は、音には反応はできているようだったのですが、名前を呼びかけてもほとんど反応がありませんでした。
今回の研究によれば、自分の名前を聞き取ることが難しく反応ができなかったかもしれません。
今も話すことは出来ませんが、呼びかけや簡単なお願いにはずいぶんと答えてくれるようになりました。
(チャーリー)