- 自閉症の早期発見にAIはどのように貢献しているのか?
- AIによる精密医療はどのように自閉症の療育方法を提供しているのか?
- 自閉症の分類が遺伝子情報に基づいて行われると、どのようなメリットがあるのか?
人工知能(AI)によって強化された新しい精密医療のアプローチが、自閉症の早期発見やそれにあった療育方法を提供することを確かにしてくれそうです。
米ノースウェスタン大学、イスラエルのベン・グリオン大学、米ハーバード大学、米マサチューセッツ工科大学から、新しい研究が報告されました。
個人の遺伝子情報などを含む詳細な情報をもとに行う精密医療の分野からは、初めての自閉症についての試みであると考えられています。
「これまで、自閉症の把握や分類は、症状のみに基づいて定義されてきました。
しかし実際には症状のスペクトルであるため、それらを区別するのは簡単ではありません。
本研究で特定された自閉症の分類は、明確な分子的特徴を持ち、療育などに役立つ検証可能なメカニズムを持つ、初めての多次元的な証拠に基づいた分類となります」
そう研究を行った、ノースウェスタン大学医学部、健康と生物医学情報学の准教授、ユアン・ルオ博士は言います。
ルオ博士は、ノースウェスタン大学臨床・トランスレーショナルサイエンス研究所(NUCATS)と医学における拡張知能研究所(Institute of Augmented Intelligence in Medicine)のチーフAIオフィサーであると同時に工学部にも所属しています。
本研究成果は”Nature Medicine”に掲載されました。
米国疾病対策予防センターによれば米国では54人の子どものうち一人が自閉症だと推定されています。
男の子は女の子の4倍以上の確率で診断されます。
自閉症は2歳になってから症状に基づいて確実に診断することができますが、子どもたちがそう診断されるのは、ほとんどが4歳以降です。
今回の研究の対象となったのは、脂質異常症に関連する自閉症として知られるものです。
米国で診断されたすべての自閉症スペクトラム障害の6.55パーセントがそれに該当します。
「我々の研究は、遺伝子変異データ、性差のある遺伝子発現パターン、動物モデルデータ、電子カルテデータ、健康保険請求データなどの生物医学・医療データの配列を重ね合わせて、世界で最も複雑な遺伝性疾患の1つを定義しようとするものです。
そして、AI強化精密医学的アプローチを用いた最初のものです」
そうルオ博士は言います。
この研究で行ったことは、デジタル地図作りと似ています。
現実世界を理解するために、研究チームは異なる情報の層を重ね合わせました。
「自閉症の根底にあると考えられているのは、何百もの遺伝子の何千もの変異です。
そしてその違いは小さなものです。
それを見つけるのは、まるで干し草の山の中から針を見つけるようなものです」
研究チームは、脳の発達過程で一緒に機能する遺伝子エクソンを特定しました。
そして、最先端のAIアルゴリズムを用いて、遺伝子発現データをグラフ化して分類しました。
エクソンとは、タンパク質を組み立てる情報を含む遺伝子の部分です。
タンパク質は私たちの細胞や臓器、脳を構成し機能させます。
「地図を作り、そして拡大して細部を見る方法は、自閉症の発見を可能にします。
そして、同時にかかえる他の多くの複雑な疾患についても教えてくれる可能性があります」
この方法を用いて研究チームは親の脂質異常症と子どもの自閉症スペクトラム障害との間に強い関連性があることも確認しました。
さらに、後に自閉症スペクトラム障害と診断された乳児には、特定の血中脂質成分の変化があることも確認しました。
これらの知見は、自閉症の早期発見と早期療育を促進することにつながります。
「現在、自閉症は症状のみに基づいて診断しています。
そのために、医師がそう診断をしたときには、すでに療育に効果的な脳の発達の重要な初期段階を見逃してしまっていることが多いのです。
今回の研究は、そのような状況を変える可能性をもたらすものです」
(出典:米ノースウェスタン大学)(画像:Pixabay)
人である医師が見聞きしてする診断では、人によって異なる診断結果になることは避けられません。
人の見聞き、判断だけに頼らない診断方法ができれば、診断をされる側だけでなく、する側も助かるはずです。
(チャーリー)