- 脳の血管系に関する自閉症と発達障害の研究はどのような新たな知見を提供しているのか?
- 研究によると、血管の問題が脳の問題にどのような影響を与えているのか?
- 次のステップとして考えられる今後の研究や取り組みはどのようなものが考えられるか?
発達障害である自閉症の脳の血管系についてこれまでにない詳細な研究が実施されました。
“Nature Neuroscience”で発表された4年間の研究成果である論文では、自閉症が内皮細胞(血管の内層)の欠陥に大きな影響を与えている、いくつかの大きな証拠を示しています。
カナダのオタワ大学医学部、脳と心の研究所のバプティス・ラコステ博士は、健康と疾患に関わる、神経と欠陥の相互作用を専門にする研究を行っています。
今回の研究は、カナダのマギル大学、ラヴァル大学、カナダ国立研究評議会と共同して行いました。
研究チームは自閉症スペクトラム障害で最も一般的な遺伝子変異である16p11.2の欠失、短い「16p」をもつマウスを利用しました。
「たとえばフェラーリのような高級車をイメージしてください。
ただガレージに止まっていれば、とても美しく思うはずです。
しかし、ガゾリンを入れなければ走ることができません。
脳も全く同じです。
脳はもっとも複雑な器官です。そして、正しく血液の供給がされなければ正しく機能できません」
通常、脳細胞が活動すると血液はその活動領域に集まります。
この現象は「神経血管カップリング」と呼ばれています。
しかし、短い「16p」のマウスでは、脳細胞が刺激されても血管の反応は遅く、弱いものでした。
そして、この神経と血液のカップリングができないことは、血管の問題であることがわかりました。
マウスから分離され、培地で生きている動脈に対し、血液の拡張を引き起こす化学物質を与えても反応は弱いものであったからです。
さらに研究チームは、血管をとりまく筋肉細胞などには変わりはないものの、血管の内皮が欠損していることを見つけました。
さらに、「16p」の欠失がある人では人生のひじょうに早い時期に、血管の問題が起きることもわかりました。
「16p」の欠損があるヒト由来とマウス由来の両方の内皮細胞は、血管ネットワークを拡張および成長させるのに必要な、血管を相互に接続することができませんでした。
生まれたばかりの自閉症マウスの脳の血管の内皮細胞にも同じ問題がありました。
思春期まで、マウスは脳の血管密度が低いままでした。
しかし興味深いことに、血管の問題とは対照的に、脳のニューロンは驚くほど問題なく成長していることも発見しました。
マウスが成長するにつれて、脳の他の細胞が機能不全の内皮細胞を補い、成人期までに血管の完全なネットワークを発達させました。
しかし実験で示されたように、成体マウスの血管は機能不全のままでした。
「配管工があなたの家にやって来て、パイプを取り付けたのですが、それがデタラメだったようなものです。
そうなると、キッチンで正しく水が出なかったりします」
そう、ラコステ博士はいいます。
ラコステ博士の研究チームは、内皮細胞の変異のみを発現するマウス、いわゆる「条件付き変異体」を生成しました。
脳と体の他のすべての細胞は遺伝的に正常でしたが、これらの条件付き変異体は自閉症のいくつかの行動の兆候を示しました。多動、常同運動、運動学習障害です。
これは、血管の問題がニューロンの機能障害の原因となって、それが次に自閉症の目に見える兆候と症状につながったことを示していました。
研究者チームはまた、同数のオスとメスのマウスを使用し、オスのマウスでより顕著に影響が現れることを発見しています。
これはメスでは、女性ホルモンと呼ばれるエストロゲンなどが自閉症になりにくくしているかもしれないことを示唆しています。
今回の研究は、血管の問題が神経発達障害のより広い範囲に影響を与えることを示唆しています。
それは発達障害の新しい診断と治療法にもつながる可能性があります。
(出典:米Medical Xpress)(画像:Pixabay)
血管の成長の問題が、発達障害の原因となる脳の問題につながっていたという研究です。
脳の働きを見る際には、PETで脳の血流を見たりしますが、脳の働いている領域=血液が集まっているところという前提があってのことです。
しかしこの研究によると、自閉症ではその前提もくずれてしまうということになります。
一方で、血管の内皮細胞が正しく成長することができれば、自閉症の少なくとも目に見える症状は減ると考えられます。
これまでにない研究です。さらなる研究を望みます。
(チャーリー)