- 水による発達障害治療の科学的根拠はあるのか?
- 発達障害治療のためのシリカウォーターズの効果は本当か?
- シリカウォーターズ社とエクスリ―教授の関係について真相は?
シリカ(=二酸化ケイ素)の水を高値で販売するインチキ療法を発達障害の子とその家族に行っているとして、イギリスのある企業が非難されています。
レックス・ガラットとウェンディの夫婦が経営しているシリカ・ウォーターズ社は、その水には有益な効果があると主張しています。
これはマレーシアの熱帯雨林で汲まれた水のボトル。1本につき約200円です。
ガラットは、発達障害の子を支援するグループには無料のお試しサンプルを送っていて、発達障害の子の親は2割引で購入できるようにしているといいます。
二人の大学教授が、この水の支持につながる発達障害の人の治療になる科学的な根拠があると主張しています。
その企業のツイートを見て購入しようとした発達障害の子の母親は、そうした宣伝を恐ろしいものだといいます。
発達障害の子の支援グループを運営しているその母親、エマ・ダルマインはこう言います。
「水で発達障害が治るなんて考えるのは馬鹿げたことです。
私は発達障害について多くの科学的な研究をみてきました。
しかし、子どもを助けたい一心からだまされてしまう親たちはいます。
悲劇です。」
シリカ・ウォーターズ社のウェブサイトには、水が「有意な利益」をもたらしたと言う親からのエピソードが紹介されています。
なおここでは、発達障害の人の脳内の高いアルミニウム濃度のことを伝える研究論文を引用して、この水は体内のアルミニウム濃度を下げることができるとも主張しています。
しかし、この研究論文の著者は英キール大学で働く、よく議論の対象となっているクリス・エクスリ―教授です。
クラウドファンディングのサイトではエクスリ―教授のプロジェクトは、ワクチンに対する誤った情報を伝えているものとして、閉ざされました。
エクスリ―教授はこれまでに雑誌で予防ワクチンに含まれる微量なアルミニウムが、発達障害に関係していると主張しています。
エクスリー教授が在籍する英キール大学は「ワクチンの予防接種を強く支持している」と表明し、エクスリ―教授の主張からは距離を置いています。
しかし、シリカ・ウォーターズ社はお茶や消臭剤など日常品に含まれるアルミニウムが、神経学的な問題を引き起こしているという理論を推進しています。
この企業を経営しているガラットはこう言います。
「子どもが大きく変わりました。この水を広めてください。
そういうメッセージをたくさんもらっています。」
そしてシリカ・ウォーターズ社はエクスリ―教授の研究への寄付も求めています。
「エクスリー教授と私たちは良い関係にあります。
エクスリー教授の研究をお客様と共有して、最新の研究成果でお客様の役に立ちます。」
シリカ・ウォーターズ社は発達障害の子の支援グループを運営しているエマにもこうメールしていました。
「無料のお試しサンプルを送ります。」
エマはその水がどうして良いのかを質問しました。
「困っているたくさんの家族がいます。
本当に発達障害が治った子どもはいるのですか?」
シリカ・ウォーターズ社のガラットは、発達障害が「治る」と親に言ったことはないといいます。
「私たちは多くの親と密接な関係を築いてきました。
この水が、発達障害を治すことはない。
と言うこともありません。」
水が発達障害を本当に治せるのかと質問するとこう答えました。
「私たちはとても慎重です。根拠のない主張はしません。
誰に対しても私たちは心を開いています。」
シリカ・ウォーターズ社のサイトではエクスリー教授の研究をたびたび引用しています。
「エクスリー教授の研究によれば、体内のアルミニウム蓄積と神経学的状態を結びつける仮説を示しており、明らかに…二酸化ケイ素水は体からアルミニウムを除去します。
シリカはまた、柔らかい肌、つやのある髪、しなやかな関節の促進に役立つことでも知られています。」
そして小さな字でこう注意も書かれています。
「アルミニウムの神経毒性と神経学的状態との関係は仮説のままです。」
エクスリー教授は水のボトルを持って一緒に写っている写真があっても、シリカウォーターズ社と「つながりはない。」と主張しています。
エクスリ―教授はこう述べています。
「ケイ素が豊富なものを飲むと、体からアルミニウムが除去されます。
アルミニウムが発達障害の原因であると考え、
それを取り除くことで発達障害が治ると考える人がいるのなら、
それは、その人たちの考えであり、私の考えではありません。」
シリカ―・ウォーターズ社からエクスリー教授への寄附は大学が断っているといいます。
また、クラウドファンディングの件も自分は知らないうちに第三者により行われたものだったといいます。
また、他の学者からの批判にはこう言います。
「私が行った研究を批判するなら、学者らしく研究で示してください。」
英オックスフォード大学の神経心理学教授であるドロシー・ビショップはこう述べています。
「シリカ水が発達障害の人に有益であるという考えを裏付ける、研究による証拠はありません。
それを促進することは無責任です。」
発達障害について専門とする英マンチェスター大学の精神医学教授であるジョナサン・グリーンも、シリカ水が発達障害の症状を治癒または停止させる可能性があるという考えには「全く根拠がない」と言います。
「エクスリ―教授はこれらの主張でよく知られている人物です。科学的な根拠がありません。」
グリーン教授は、エクスリー教授は自らの論文で「非常に明確に」シリカ―・ウォーターズ社とのつながりを示すべきだと言います。
またクラウドファンドのプロジェクトで研究資金を集めようとしたことにも疑問を投げかけました。
「クラウドファンディングで研究資金を集めようとするのはめずらしいことです。
つまり、研究費の獲得に通常の方法が使えない。きちんとした科学的な根拠を示すことができないのだろうと思います。
研究を進める上で必要なチェックとなるピアレビューや重要な評価から逃げているのです。」
エクスリ―教授はクラウドファンディングでのプロジェクトは私がしたものではないと重ねて主張しています。
(出典・画像:英Mirror)
博士や医師が発案したり、協力したりしている「エセ医療」もよくあります。
最近どこかで見かけた、発達障害は治る本の著者は物理学者でした。
信頼できる科学、医療である理由は、頭の良い博士や医師が作ってきたからではありません。
それよりも、そうした人たち同士(=専門領域)が堂々公開し、批判しあい、証明して、生き残ってきたからです。
博士や医師による著書でも、まず専門領域が大きく異る場合には疑う視点をもったほうがよいかと。
ただ一方で、これまでになかった大きな発見や創造、イノベーションの多くは専門領域外の人によりなされています。認められるまではエキセントリックとされたはずです。
しかし自分の子の命、人生にかかわること、心細くなったときこそエキセントリックより信頼できるものを選ぶべきでしょう。
(チャーリー)