- 自閉症の脳の構造は運動によって変わるのか?
- 自発的な運動が自閉症の行動にどのような影響を与えるのか?
- 自閉症スペクトラム障害の人にとって、どのような運動が効果的なのか?
自閉症スペクトラム障害(ASD)の場合の特徴として、脳内においてニューロンの過剰な結合が認められています。
今回の自閉症のマウスを使った研究で、運動することがその過剰な結合をなくし脳の構造を変えることが明らかになりました。
一ヶ月間、自発的に走り続けた自閉症のマウスは、行動が変化しました。
そして、自閉症での特徴的な脳の構造の違いも、減少していました。
今回の研究を行った東京大学の小山 隆太准教授はこう述べています。
「自発的に行う運動は、薬を使う必要がない安全な改善方法になります。」
しかし、今回の研究はマウスを使ったものであり、運動が人間においても万能薬になると過度に期待しないように注意もしています。
「今回の研究の重要なポイントは、強制的に運動をさせられたのではなく、自発的に行った運動であることです。
マウスは運動を強制されていません。
マウスが自発的に行った運動です。
なので、自閉症の子どもが興味をもった場合には、したいと思っている運動ができるように支援するのがよいと考えます。
それが、発達障害の自閉症スペクトラム障害の子どもたちによい影響を与えると思います。」
約10年前に行われた、子どもを対象とした小規模の研究でも、定期的に運動を行うことが自閉症スペクトラム障害の人に共通する社会的な困難や反復行動を改善させる可能性が示されています。
その他に多くの研究で、運動が脳を変化させること、加齢に伴う脳の変化を遅らせることがわかっています。
しかし、運動が自閉症スペクトラム障害の人の脳に与える変化についての研究はこれまでありませんでした。
成長していくに従って、脳内では無駄なニューロンのつながりは消えていきます。
しかし、自閉症スペクトラム障害の子ではそのつながりは多いままとなっています。
今回の自閉症マウスの研究の結果から、運動を行うことが無駄なニューロンのつながりを消すことを促進させている可能性が示されています。
「運動することで、活発なニューロンの結合と、活発でないニューロンの結合の差がはっきりして、活発でないニューロンの結合を消えやすくしている可能性があります。」
自閉症マウスは、生涯にわたって発達に関わる特徴的な行動を示します。
他のマウスと関わることが少なく、繰り返し自分の体の毛づくろいをし、環境が変わると食事をする時間が長くなります。
今回の研究では自閉症マウスのケージの隅に「回し車」を置いて、いつでも好きなだけ走れるようにしました。
マウスは生後8週間で「成人」になります。
生後4週間から8週間までのマウスが研究に使われました。
「研究データにばらつきがある理由の一つは、すべてのマウスが同じだけの量の運動をしたわけではないからです。
少しだけしか運動しなかったマウスもいれば、たくさんの運動をしたマウスもいます。」
それぞれのマウスにばらつきはあるものの、運動をおこなった自閉症マウスを平均すると、回し車で走るようになってから30日後には、自閉症でないマウスと変わらない行動をとるようになりました。
そして、自閉症マウスの脳の内部を確認するための研究が行われました。
脳の海馬の苔状線維と呼ばれる構造に注目しました。
この脳の領域は、記憶に関わる重要なところで、ニューロンの生まれるところです。
それぞれ個々のニューロンは、そこから生まれた何十ものニューロンを通じ苔状線維につながっていると考えられます。
ミクログリアと呼ばれる免疫細胞は、あまり活動していないニューロンの先端にある結合部位であるシナプスを消し去ります。
そうして脳の構造を変化させるため「脳のお掃除屋さん」とも呼ばれています。
分子遺伝学と蛍光イメージング技術を用いて、どの苔状繊維が最も活動しているかを識別しました。
そしてミクログリアがそれらを避けながら、あまり活動していないものを取り除いていたことを確認することができました。
研究チームでは、自閉症でないマウスで、ミクログリアが無駄なニューロンのつながりを消していることも確認しています。
ミクログリアが活動できないように投薬されたマウスは、5日経過後にはミクログリアが通常どおりのマウスの脳と比べて、ニューロンのつながりが明らかに多くなっていたのです。
発達障害である自閉症スペクトラム障害の原因を探ることは活発な研究分野となっています。
東京大学の小山准教授の研究チームでは、自閉症スペクトラム障害の脳の変化を戻せる可能性、運動とミクログリアの関係についてもより研究がされていくべきだと述べています。
(出典:米MedicalXpress 東京大学)(画像:Pixabay)
運動することで、発達障害である自閉症スペクトラム障害の子の脳内のつながりが変化し、症状が改善される可能性が示された研究です。
脳については、以前まで考えられていたよりも、柔軟に変化することがわかってきています。
誰もが「運動は良い」とは思っていたはずですが、強制ではなく「自発的」であることが重要です。
少しでも興味をもったら、どんどんすすめて、一緒に運動するのが一番ですね。
発達障害の方それぞれに合わせた「適応運動」個人トレーニング
(チャーリー)