- 発達障害の子供が標準的な認知能力テストができないのはなぜか?
- 発達障害や自閉症の子供たちは、実際にどれくらいの認知能力を持っているのか?
- 従来のテスト方法では発達障害の人々の能力を正確に測ることができないのか?
カナダ、モントリオールの病院で臨床神経心理学者として働いていたイザベル・スーリエールは発達障害の子どもたちに認知能力テストを行っていました。
そして、答えられるはずの質問にも答えられないことがよくあることを見てきました。
例えば、子どもたちが「犬」という言葉を理解しているかをテストするために、4枚の絵の中から犬を指をさすようにお願いをします。
すると発達障害の子どもたち(多くは話すことができません。)は、親から犬は知っているはずだと言われても、ただ見つめていたり、逃げていってしまいました。
また例えば、記憶力をテストするために、あるピエロの写真を見せます。次に二人のピエロが写った写真を見せて、どっちが最初の写真で見たピエロがたずねます。
多くの子ができないのと同じく、それができない女の子がいました。
しかし、その女の子は2週間前にしまった楽器を正しく引き出しから出せるのです。
記憶力のテストはできなくても、実際には素晴らしい記憶力があるのです
発達障害の子どもの中には、テストなどで測定されるよりも、はるかに理解や記憶ができている子どもがいる。知性が低いと誤って認識されているという結論にいたりました。
「子どもたちには能力はあるのです。しかし今のテストでは測定できないのです」
そう、現在はカナダのモントリオール大学の心理学の教授となっているスーリエールは言います。
多くの発達障害に関わる医療関係者や家族も、そう感じています。
「人に考えていることを伝えられない。または他の人と同じように扱われない。
これはとても辛いことです。うつ病にもつながります」
そう、米ラドガース大学で成人の発達障害について研究するバネッサ・バルは言います。
そして、米ハーバード大学ボストン小児科病院のチャールズ・A・ネルソン教授もこう言います。
「言葉が話せない、低機能の子どもたちは、実際には私たちが考えているよりも高い知性がある可能性があります。もし、そうであればもっと効果的な療育を行うこともできるはずです」
病院で子どもたちを見てきたスーリエール教授はこう言います。
「テストで測られたIQが実際とは違えば、適切なサポートになっていない可能性があります」
研究者たちは、重度の発達障害の人からは信頼できるデータを得ることができないために、調査からは除外することが多くあります。
「ほとんどの研究者たちは、重度の自閉症スペクトラムの子どもは調査対象から外してしまいます。
これは大きな問題です」
数語しか話せませんが、タブレットを使うとブログまで書ける22歳の発達障害のイド・ケダーは自分が経験した絵カードによるテストのことについてこう書いています。
「私は心の中で叫びました。
『木のカードにタッチをしなければいけない。家のカードに触れてはだめ!』
私はまるで観客のように自分を見ていました。
しかし、私の手は私の手の上にのりました。
そして私は、また『木』が理解できていないと判断されました」
多くの発達障害の人に、自分で自分の体が制御できないことがあるといいます。
また、試験に対する不安や他のことに注意してしまうことなどが、測定する試験に対しての妨げになる可能性があります。
そして、認知能力の評価の場合には、通常45分程度かかります。
それは、注意障害や多動性の発達障害の人にとっては長すぎる時間となります。
米ケネディ・クリゲール研究所の神経心理学者、ベス・スロミンはこう言います。
「認知能力の測定で行う作業は、とても退屈なものです。
常に正しく測定できるものとは思えません」
特に言葉の話せない発達障害の人に対して、従来の測定方法が有効であるとは専門家たちも思っていません。
これから、テクノロジーが正確に測定することを可能にしてくれるかもしれません。
米ボストン大学のチームは、ほとんど話すことができない発達障害の人たちを測定するために視線を追跡できる装置を利用しています。
2016年の研究では、5歳から21歳までの19人の発達障害の人たちに並べた2枚の画像を見るようにお願いしました。
2枚の画像が画面に表示されてから、2.5秒後に、その画像を示す言葉とともに「見てください!」と声がかかります。
視線を追跡する装置が、発達障害の人がどちらを見ているかを測定します。
その結果、
画像を示す言葉と一致した画像を見ることのほうが多くありました。
この測定方法は、人である研究者と直接やりとりすることが減り、発達障害の人にとってはストレスが少ないものにもなっています。
また利用する画像も、機関車トーマスやその他キャラクターを利用しました。
この研究を行ったボストン大学自閉症研究センター長のヘレン・フルスバーグ博士はこう言います。
「私たちは、楽しくできるようにしました。
テストをしていると思わせるものでなく、見守っているようにしました」
この研究で、目の動きから一部の人は言葉を理解していることが明らかになりました。
視線追跡装置を使った測定で、言葉を理解できているとわかった人たちには、従来の絵カードによる測定なども行われました。
しかし、従来の測定方法ではそう判断できない人たちもいました。
さらには、脳波を利用したものもあります。
米ラットガーズ大学の2016年の研究では、3歳から7歳までの言葉をほとんど話すことができない発達障害の子ども10人とそうでない子どもたち10人が参加し、画像を見た0.5秒後に画像が示す言葉を聞きました。
発達障害の子のグループ、そうでない子のグループそれぞれに、画像と言葉が一致しているときの脳波、一致していないときの脳波を比べ、脳波のパターンの違いを見つけました。
そして、発達障害の子のグループ、そうでない子のグループとの間での違いは、発達障害の子が話すことができない原因の理解に役立つかもしれません。
視線の追跡や脳波による測定方法の研究により、これまでの検査や測定方法は不正確であると考え、言葉の話せない発達障害の人の認知能力を測定する技術の開発が不可欠だと考える研究者たちが出てきています。
それが、言葉を理解でき、文章を読むこともできるものの、伝えることができない子どもたちを救える唯一の方法になるからです。スーリエール教授はこう言います。
「すべての人が私たちの研究開発に賛成しているわけではないでしょう。
しかし、言葉もわかり知性も高いものの、それを伝えられない、測ることができていないだけの人がいるかもしれないのです」
うちの子は重度の発達障害、知的障害です。言葉も話せません。
なので、こんな研究は本当にうれしく勇気づけられます。
自分の子でも何を考えているのかわからないことがよくあります。
けれども、実は私にはわからないだけで、私の言っていることは伝わっていて、同じように感情をもって喜んだり、悲しんだりしているのだとしたら、本当にうれしく思います。
(チャーリー)